貧困家庭の実情とジェンダー問題 〜誰もが夢や希望を持てる社会の実現のために、一人ひとりができること〜|NPO法人キッズドア理事長 渡辺由美子氏 インタビュー

FUMIKODAは創業以来、社会課題や環境問題に積極的に向き合い、さまざまな取り組みを行ってきました。社会全体から見ればその成果は微々たるものかもしれませんが、深刻な問題に対し見て見ぬふりをせず、何ができるかを考え、行動に変え、続けてきたことに、大きな意義があると自負しています。

このたびブランドデビュー5周年を迎えるにあたり、チャリティープロジェクトを開催することになったのも、日頃のそうした活動の延長線であり、FUMIKODAらしさでもあります。生活が困難な状況にある子どもたちの支援活動に取り組むNPO法人キッズドアの協力のもと、売上の一部の寄付や、バッグの寄贈を行います。

誰もが夢や希望が持てる社会の実現のために、私たち一人ひとりになにができるのか。同法人の理事長である渡辺由美子氏をお迎えし、貧困家庭の現状や支援体制の実態をお話しいただきました。聞き手はFUMIKODAクリエイティブディレクター、幸田フミです。

FUMIKODA WOMAN インタビュー 幸田フミ

幸田フミ(以下、幸田):コロナ禍によって多くのご家庭が苦境に立たされていますが、子どもの貧困、とりわけシングルマザー家庭の厳しさは今に始まったことではなく、コロナ以前から深刻な状況が続いています。

FUMIKODAは様々な形で社会課題の解決に向けた取り組みを続けていますが、一方でFUMIKODAもまた、創業以来たくさんの方に支えられてきました。
このたび5周年を迎えられたのも皆様のお力添えのおかげであり、社会への恩返しというわけではありませんが、コロナ禍で苦しい生活を余儀なくされている方たちに一刻も早く手を差し伸べなければと思っていました。

私もシングルマザーとして子どもを育ててきた一人なので、ご飯を十分に食べることができない子どもたちのことは、とても他人事ではありません。そこで子どもの貧困支援に特化した活動をされているキッズドアさんへ、少しでも寄付ができればと考えたのです。

FUMIKODA WOMAN インタビュー NPO法人キッズドア理事長 渡辺由美子氏

渡辺由美子(以下、渡辺): ありがとうございます。キッズドアは発足以来一貫して、子どもの支援を続けていますが、子どもたちの後ろには当然それぞれのご家庭があり、お母様たちが大変な思いをしながら子育てしている様子も見守ってきました。

ところが世界がコロナ禍に見舞われて以降、ただでさえ逼迫していたご家庭の状況はいっそう深刻になりました。これまでの支援体制では立ち行かないと気づき、お母様方の就労支援などを始めるに至りました。

皆さんとにかく子どものことが優先で、自分のことは後回しなんですね。子どもにお腹いっぱい食べさせるために自分は食べずに我慢するのも珍しくないくらいですから、余裕なんて一切ないわけです。私たちは約3,000世帯のそうしたご家庭とつながり、食品をお届けしていますが、寄付で頂いた化粧品などを一緒にお送りすると、化粧品なんて何年ぶりかしら、長い間お化粧をすることも忘れていた、といったメッセージが返ってくるんです。

「自分のことを後回しにしてしまう」
母親にこそ支援が必要だった

幸田 それは皆さん喜ばれるでしょうね。今回、新しいお仕事を始めようとするお母様がたの助けになればと思い、FUMIKODAからもお仕事バッグを寄付させていただきました。

私がバッグを作り始めたのは、家事や育児をこなしながらギリギリの状態で仕事も頑張っている女性のストレスを、少しでも軽減したいという思いに突き動かされてのことですから、こういう形でバッグをプレゼントさせていただけるのは本望です。バッグを作ってきてよかった、と本当に思いました。
それにしても、食事も満足にできないご家庭がそんなにたくさんあるとは驚きです。

渡辺 バッグを新調するなんて、普段なら後回しになるところですから、本当に助かります。喜んでいただけると思います。

コロナ以前の統計では、日本の子どもの貧困率は13.5%。つまり7人に1人が貧困の状態にあることになります。さらにひとり親家庭の貧困率は48.1%。ほぼ半数ですね。
それらの多くのご家庭で、コロナ禍によって収入が大幅に減ったり、仕事を失ったり、あるいは追い詰められてうつ病になってしまったりといったことが起きていますから、現在はもっと高い数字になっているはずです。
また医療従事者の場合、感染リスクが高く濃厚接触者に特定されて仕事に行けない、そうなると子どもも学校に行けなくなるといった不都合も生じています。

FUMIKODA WOMAN インタビュー NPO法人キッズドア理事長 渡辺由美子氏

私たちの調査では、食費が十分に確保できないご家庭が48%、水道光熱費が引き落とせなかった経験があるご家庭が33%、学校の諸経費が引き落とせなかったご家庭が30%もあるんですね。今までわずかな貯金を取り崩しながらやりくりしてきた方が多いんですが、このコロナ禍でついに貯金を食いつぶしてしまい、貯金が10万円未満という方が約半数でした。

幸田 日々の生活に手一杯で、将来が見えませんね。行政の支援はどうなっているのでしょうか。

渡辺 皆さん生活のためにとにかく働きたくて仕方ないのに、どうしても働けなくて、収入がどんどん減る一方なんです。行政の支援ももちろんありますが、日本のお役所には、生活に困っている人に現金を支給する体制がないのです。あるのは、例えばコロナ禍で生活が困窮したご家庭に無利子で貸付をする制度、つまり借金なんです。

ただでさえ生活が逼迫している方たちは、借金することに強い抵抗をお持ちのことが多く、どういうご家庭を想定してこの制度が作られたのか、甚だ疑問です。

幸田 苦しい生活の中で、お金を返していくのは大変です。

渡辺 無利子で20万円を借りることができて最初の1年間は返済免除なんですが、その後月1万円ずつの返済を続けていくことになります。そのせいで子どもを塾や習い事に通わせられなくなったり、大学進学のための積立を続けられなくなったりと、結局子どもにしわ寄せが来るんです。貸付なんていわずに渡してあげることはできないのかと思います。

海外だと、子どもはなにかと優遇されますよね。飛行機に乗るときだって、子どもは特別だからと、優先搭乗させてもらえたり。でもなぜか日本の政府は子どもに冷たい。子どもがお腹をすかせていると訴えても、なんで子どもだけ、他の人も大変だ、みたいな議論を持ち出してくるんですね。

幸田 将来の日本を支える人たちなのだから、真っ先に支援しなければならないはずなのに・・・。政府に任せていられないから、キッズドアさんが支援の手を広げている状況なんですね。

根本的な支援は別のところにある

渡辺 表向きの活動は、寄付で集まったお金で食品を買って送ったり、就労支援で少しでも収入を増やしてもらうことですけれども、実はいちばん重要なのは、お母様たちに元気を出してもらうことかもしれません。

彼女たちは自分を殺して子どものために身を粉にしているために、自分が何かを成し遂げることや、自分は素敵な存在であるという意識が完全に置いてきぼりになってしまっているんです。私は何もできません、ダメなんですとおっしゃる。ですから、家事も子育ても仕事もこなしているあなたは本当に立派な人で、何もできないなんてことはないんですよ、と気づかせてあげるプロセスが必要なんです。

FUMIKODA WOMAN インタビュー NPO法人キッズドア理事長 渡辺由美子氏

幸田 確かに新しいことを始めたり何かに挑戦するときには、自信が必要です。自分のことを後回しにしてきた人が自信を無くしているのは無理もないことですし、まずは自信を取り戻してもらうことから始めなければ、真の支援にはならないですね。

渡辺 彼女たちがパートで働いていることもひとつの要因です。正規の社員として企業でキャリアをつないでいれば、研修やトレーニングを受ける機会があるはずなんです。ずっとパートをしている方は、これまでそういう経験が少なかったので、自分の強みを見つけることを目的にしたワークショップに参加してもらうと、私の強みはこれだったんだと気づいてくれて、就活に前向きになってくれたりします。

幸田 エンカレッジを促して、最終的には支援が不要になる状態を目指してもらうということですね。

渡辺 誰かが手を差し伸べなければ、彼女たちは絶望してしまいます。彼女たちの、誰にも理解されないし行政も助けてくれないという孤立感を払拭するためには、食品を送ることよりも、できるだけ多くの方からの応援の声を届けることが大事だと思っています。あなたたちを応援していますよ、みんな気にしていますよ、頑張ってくださいねと、メッセージを伝えるだけでも、大きな支援になります。

幸田 経済的な支援がもちろん重要ですが、それ以上に別の形の支援も必要であることがよくわかりました。なにより、この現実を一人でも多くの方に知ってもらうことが必要だと思いました。キッズドアさんの活動や貧困家庭の実態を知って、自分も何か支援したいという方がいたら、例えばどういうお手伝いができるでしょうか。

FUMIKODA WOMAN インタビュー 幸田フミ

渡辺 メインの活動の一つとして、子どもたちに勉強を教える場を設けているので、できるだけ多くの方に学習ボランティアに参加していただけると助かります。多くは家に落ち着いて勉強できる環境がなかったり、勉強が苦手な子どもたちなので、誰かが横にいて勉強に付き合うだけでもいいんです。高度な知識がなくても大丈夫ですし、週に1回でも構いません。今年からオンライン英語学習も始めたので、中学生に英語を教えるくらいならできるかも、という方がいらしたら、手を上げてくださると嬉しいです。

幸田 お母様方への支援の方はいかがですか。

渡辺 お母様たちを元気にするためのオンラインイベントを開催しています。対面でイベントを開催していたときは、皆さんお忙しいのでなかなか参加してもらえなかったのですが、コロナ禍でオンラインに切り替えたら、平日の夜や土曜の午前中に、多いと100人くらい参加してくださることもあります。
これまでファイナンシャルプランナーのセミナーやメイクレッスンなどを実施してきましたが、ヨガレッスンのようなセルフケア系も喜ばれると思うので、ヨガインストラクターの方などにお手伝いいただけると嬉しいですね。

女性に生き生きと輝いてもらうことで
社会が変わる

幸田 根本的な状況改善のためには何が必要ですか。

渡辺 日本はジェンダーギャップが大きい国です。そこが改善されないと真の解決にはならないのですが、そのいちばんの近道は、女性がどんどん社会で活躍して少しずつ状況を変えていくことなのではないかと思います。その意味でも、FUMIKODAさんが実践する、バッグで女性を応援しようというような取り組みを、しっかりと続けていくことがとても大事なんです。

女性が補助的な立場に甘んじるのではなく男性と対等に仕事ができるのが当たり前になって、結婚するしない、子どもを持つ持たないについても、自由に選べる社会にしていきたいですね。

FUMIKODA WOMAN インタビュー NPO法人キッズドア理事長 渡辺由美子氏

幸田 貧困問題を掘り下げると、女性の自立支援に行き着くんですね。

渡辺 おっしゃるとおりです。日本のひとり親家庭の貧困率は、先進国の中で突出して1位です。ところが就労率も先進国で1位なんですよ。つまりワーキングプアです。一番働いているのに、一番貧困率が高いという、非常に不思議な構造になっています。ちなみに就労率2位はデンマークですが、同国のひとり親家庭の貧困率は5%と、一番低いです。働いていれば収入が増えるから貧困率は下がるはずでしょう。日本では女性が正当に評価されていないことの現れです。

幸田 ジェンダーの問題はいろいろ議論されていますが、なかなか進展しません。みんなが幸せになるために、社会全体で向き合う必要がありますね。

渡辺 子どもを見ていてわかったことなんですが、ロールモデルがあることってとても大事なんです。ご両親が大学を出ていなかったり、パートで働いているお母さんしか知らないと、子どもたちは、大学で学ぶことや、正社員として企業で働くことのイメージが持てないんですね。でもボランティアで来てくださる大学生や社会人と接することで、そういう世界があることを知って、選択肢が広がっていくんです。

特に女の子はロールモデルを探していますが、お母さんはいつも忙しいし、各ご家庭でできることは限られます。FUMIKODAさんのように、サステナビリティとか様々な活動を実践しそれを発信している姿は、大いに参考になると思います。

お母さんに対しても同じで、女性も自分の主張をしながらキャリアを築いていけるんだと気づいてもらうためには、ロールモデルが必要なんです。私もああなりたい、少しでも近づきたいと思うことから始まって、一歩近づき、一歩が二歩になり、二歩が三歩になっていけばいいなと。「いつかは自分でFUMIKODAのバッグを買うんだ」というような目標を持つことも重要だと思いますね。

FUMIKODA WOMAN インタビュー 幸田フミ

幸田 今回FUMIKODAでは売上の一部の寄付やバッグの寄贈をさせていただきましたが、今後どのような形で支援を続けていけばいいでしょうか。

渡辺 まずFUMIKODAさんにはこれまで通り、バッグ作りを通して女性を元気にすることを続けていただきたいですね。私自身、荷物が本当に多くて、いつも軽量なバッグを探し求めていたんですが、気に入るバッグがなかなかないんですね。そんなときにFUMIKODAのバッグを知って、これだと思いました。女性が元気に働くためのギアのような役割も兼ね備えているじゃないですか。素敵なバッグを作ってくれて感謝しています。

そして今回のチャリティープロジェクトもそうですが、頑張っているけど自分ではなかなか抜け出せない人が日本にもたくさんいることを広く知ってもらう機会を作っていただくことですね。世間の理解が進むことが、何よりも良い糸口になりますから。

FUMIKODA5周年
チャリティープロジェクト

FUMIKODAは2021年9月29日にブランドデビュー5周年を迎えるにあたり、コロナ禍で苦境に立たされているシングルマザーや、困窮家庭の子どもたちの支援をするチャリティープロジェクトをNPO法人キッズドアとともに実施させていただくことにいたしました。

少子化が進む日本で、生まれた環境にかかわらず、すべての子どもたちがいきいきと成長できる社会を実現するために、少しでも役に立ちたいと思っております。

FUMIKODA チャリティープロジェクト

FUMIKODA WOMAN インタビュー NPO法人キッズドア理事長 渡辺由美子氏、フミコダ 幸田フミ

FUMIKODAでお話いただいた、NPO法人キッズドア理事長の渡辺由美子さん。
今回のチャリティープロジェクトで寄贈するバッグと同じ、トートバッグ「ALEX」をご愛用いただいています。

渡辺 由美子さんプロフィール

千葉大学出身。大手百貨店、出版社を経て、フリーランスのマーケティングプランナーとして活躍。配偶者の転勤に伴い一年間イギリスに移住し、「社会全体で子どもを育てる」ことを体験する。2007年任意団体キッズドアを立ち上げ、2009年内閣府の認証を受けて特定非営利活動法人キッズドアを設立。日本の全ての子どもが夢と希望を持てる社会を目指し、活動を広げている。2016年第4回日経ソーシャルイニシアティブ大賞国内部門ファイナリストに選ばれる。2018年5月、初めての著書『子どもの貧困〜未来へつなぐためにできること〜』(水曜社)を上梓。
内閣府 子供の貧困対策に関する有識者会議 構成員。
厚生労働省 社会保障審議会・生活困窮者自立支援及び生活保護部会委員。
一般社団法人 全国子どもの貧困・教育支援団体協議会 副代表理事。