「自分が変わると相手も変わる。言葉を変えると人生が変わる」元NHKアナウンサー 墨屋那津子:FUMIKODA WOMANインタビュー vol.08

「FUMIKODA WOMANインタビュー」では、さまざまな仕事の現場で活躍する女性たちに、仕事への取り組み方から、生き方やライフスタイルまでをお伺いします。今回は、NHKアナウンサーだった経歴を持ち、現在はさまざまな分野で活躍する墨屋那津子さんにお話を伺いました。聞き手はFUMIKODAのクリエイティブディレクター・幸田フミです。

「素敵な人やものを発信したい」という思いが名刺の数に比例する

幸田フミ(以下、幸田):今日はプライベートでも親しくさせていただいている墨屋那津子さんをお招きしました。ご主人の劉勇先生は鍼灸治療の名医で、FUMIKODA SALONにもご登壇いただきました。ご夫妻でお世話になっています。

墨屋那津子さん(以下、墨屋):ありがとうございます。やっとゆっくりお話しできますね。

幸田:ずっと前からお伺いしてみたかったのが、那津子さんはいくつ肩書きを持っているのかということ。本当にさまざまな分野でご活躍ですよね。

墨屋:現在もアナウンスやナレーションのお仕事をいただいているのと、主人の鍼灸院を運営する会社の取締役、日本医療腸育普及協会の理事。おせちやスイーツのプロデュース、ビフィズス菌サプリメントの開発、レストランの運営やコンサルティング。メーカーのプロジェクトに関わったり、テレビ番組や講演会のキャスティングをしたり。あとは広告代理店みたいなことも。素敵な人やものをいろんな人にご紹介したいと思うと、つい名刺が増えちゃうんです(笑)。



幸田:那津子さんが素敵だと思うものに出会うと、ビジネスが増えていくわけですね?

墨屋:ビジネスというよりも、いいものが世の中に出てキャッチする人が豊かになってくれたらうれしいという気持ちのほうが大きいですね。ただ「素敵!」という感性だけで人に何かをすすめることはありません。

アナウンサー時代、「おはよう日本」「NHKスペシャル」などの報道に携わるなかで叩き込まれたのが「情報を得たら、必ず裏を取れ」ということ。誰から得た情報なのか、その人物は何者なのか、出どころをはっきりさせないと世に出すことは許されませんでした。ですから、素敵なものに出会ったら、なぜいいのか、どういいのかをきちんと見極めてからでないと発信はできないですね。

幸田:FUMIKODAのバッグもご愛用いただいているだけでなく、本当にたくさんの方にすすめてくださってうれしく思っています。

墨屋:私はずっと“バッグ難民”だったので、デザインが素敵で使いやすく、ポリシーを持ったFUMIKODAに出会ったときは「これだ」と思いましたね。みなさん喜んでくださるので、私も紹介する甲斐があります。

 

誰にも頼ることができず、回り道ばかりしてきた20年

幸田:石川県のお生まれで、「真田紐」という伝統工芸品の織元のご出身ですね。そもそも、どうしてアナウンサーを目指されたのですか?

墨屋:人のすすめです。学生時代にNHKの音楽番組で3ヵ月ほど司会をさせてもらっていたのですが、知り合いに「アナウンサーに向いているんじゃない?」と言っていただき、受けてみたらとんとん拍子で。ありがたいアドバイスでしたね。結婚が決まり、後ろ髪を引かれながら26歳で退局することになりましたが、それからのほうが大変でした。主人の鍼灸院を営む会社の取締役になって、いきなり150名もの社員のマネジメントを任されました。

幸田:しかも3人のお子さんを育てながらですよね。さらにレストラン5店舗の運営など、さまざまな仕事が舞い込んできたと伺いました。

墨屋:初めてのレストラン経営で、スプーン選びからメニュー開発、採用面接、資金の工面まで、悩みながらやっていました。今のように何でもパソコンでできる時代ではなかったから、子どもをあやしながら給与計算したりね。結婚してからの約20年間は、何でも経験だと思って「NO」を言わない人生を歩んできました。

幸田:誰かに手伝ってもらったり、アドバイスをもらったりはしなかったのですか?

墨屋:その発想がなかったですね。私は昔から「自分ごときのために人様の時間を使わせてはいけない」といった遠慮がちなところがあって、食事に誘うのも悩みを聞いてもらうのも、その人に申し訳ないと考えるタイプだったんです。そのため、私にはメンターと呼べる人がいなくて、回り道ばかりしてきました。

ですから、ここ数年でキャリアカウンセラーとして私の経験をお伝えすることができていることが、とてもうれしいんです。いいものを人にすすめたいと思うのも「その人にとって、幸せの近道になるなら」という思いが強いのかもしれません。

 

時間をマネジメントすることは、人生をマネジメントすることである

幸田:一番すごいなと思うのが、那津子さんはこんなに多くの仕事を抱えているのに、まだ余裕があるように見えること。どうやって時間のやりくりをしているのですか?

墨屋:人生で一番大切なものの一つが「時間」だと思っているんです。時間をマネジメントすることは、人生をマネジメントすること。だからToDoリストが増えると「時間のマネジメント力を磨くチャンスだ!」とうれしくなっちゃう(笑)。でも1日24時間しかないし、睡眠時間は確保したいので、家事をしながらナレーションの音源を聴いたり、歯みがきしながらストレッチしたり、二毛作三毛作でこなしていますね。

幸田フミ FUMI KODA

幸田:つねにマルチタスクの那津子さん。「手一杯でどうしよう」と焦ることはないのでしょうか。

墨屋:料理と一緒ですよ。こんなに食材をもらっちゃったけど今日は食べきれない。だったらこれはマリネにして明日食べよう、これはジャムにしておこう、これは人にあげようとか、それと同じです。

それから私の強みは、秒単位で時間を大切にできることですね。ニュースを読んでいると、ほんの数秒の大切さを痛感します。30秒、1分をムダにしないと意識することですね。私のToDoリストは、数分でできることも書いてありますよ。

幸田:そう考えると、私はけっこう時間をムダにしているような気がします。

墨屋:時間をうまく使う秘訣があるとしたら、どうにもならないぐらい忙しい2~3年を過ごしてみることですね。そうするとおそらくどんなことも「あの時よりもラク」って思えますから。

幸田:たしかに。朝までがんばっても終わらなくて毎日泣きながら仕事した時期が私にもありました。今ももちろん大変ですけど、そのときに比べたら一緒にがんばってくれるスタッフもいますし、夜になったらワインも飲めているだけいいのかなって思えますね(笑)。

 

伝えなければ、何も伝わらない。あらためて知った言葉の力

幸田:ここ数年、ニュースやナレーションのお仕事を再開しているそうですね。

墨屋:これまで自分のやりたいことは後回しにしてきましたが、年齢とともに子宮筋腫や重度の貧血など多くの不調を抱え、3~4年前に病を患ったことが自分の人生を見つめ直すきっかけになりました。NHKを辞めて主婦業に専念するつもりが、会社の経営をしながら3人の子どもも育てて、自分のために時間を使いたいなんて思う暇もありませんでした。かねてよりアナウンスの仕事もオファーをいただいていたのですが、「子どもも小さいんだし、やめておけば?」という主人に従ってすべてお断りしてきました。

でも会社も大きくなって、子どもも成人するまでに成長し、病気になって死にも直面した。これからは自分のために時間を使わないと、やりたいことを実現できない人生になってしまうと思ったんです。



NHK「ニュースウオッチ9」のオーディションを受けたいと主人に話したら、答えはいつもの「やめておけば?」。冗談でちらりと離婚もほのめかすぐらいイヤだったみたいです(笑)。夜の生放送で、帰りは24時を過ぎることもあり、はじめの3ヵ月は主人もぶつぶつ言っていました。でも、あるとき放送を聴いてくれたようで「プロだね。声で人を癒せる人はそういないから、極めなさい」と言って、帰りは迎えに来てくれるようになったんです。

幸田:すごいですね。とても感動します。

墨屋:言葉の力を感じました、意識して伝えれば、必ず相手に伝わり、NOをYESに変えることができる。とてもシンプルなことに、40代後半になって初めて気づかされた出来事でした。

 

「船頭はひとりでいい。私は船を押す風でありたい」

幸田:これからはどんな活動をしていこうとお考えですか?

墨屋:働く女性のサポートをしていきたいですね。そのためにおこなっているのがボイスレッスンです。一般的にビジネス向けのボイスレッスンは滑舌や声の通りをよくすることを目的にしますが、私の場合はその方のなりたい人物像やキャリアに近づけるような印象のコントロールを目指しています。エレガント、誠実、パワフルなどという印象を声で演出することで、ご自身のブランディングにもつながります。

それから、これまでに私が経験してきたことをすべてお伝えして、キャリアに生かしていただきたいです。先ほどもお話ししましたが、私にはメンターがいなかったので遠回りしてばかりの人生を送ってしまいました。同じような苦しみを、女性たちに味わってほしくないんです。

幸田:メンターという点では、ご夫妻の関係はどうですか? お二人で仕事のことを話したり、悩みを打ち明けたりなさいますか?

墨屋:施術のことと患者さんのことが最優先の主人に対し、私は会社の経営面のことも考えなければいけないので、意見がぶつかるのは当然ですね。一触即発の状態が続いたこともありますよ(笑)。

でも、あるとき思ったんです。「船頭はふたりいらないな」って。ふたりで行きたい方向が違っていたら150名を乗せた船の歩みは止まってしまいます。「せっかく同じ船に乗ったのだから、私は船を押す風ぐらいにならないといけないな」と思えてからは、意見したり彼の考えを否定したりすることをやめて、なんでも一度は「なるほど」「確かにそうだね」と受け入れるようにしています。私が変わった途端、相手も変わりましたよ。今はとてもいい関係です。

幸田:それはご夫婦だけではなく、ビジネスパートナーやチームビルディングにも通用するコミュニケーション術なのかもしれませんね。

プライベートとお仕事とのどちらをこなしながら、いつもキラキラと輝く那津子さんの魅力の理由を知ることができました。本日はありがとうございました。

墨屋那津子さんプロフィール
石川県生まれ。大学卒業後、NHKにアナウンサーとして入局し、結婚を機に退局。3人の子どもを育てながら、鍼灸院を営むご主人・劉勇氏の事業をサポートし、3社の事業会社の経営に関わる。また、これまでにレストラン運営や商品開発、出版プロデュースなどさまざまなコンサルティングにも参画。現在はアナウンサー時代に培った経験を生かし、ボイスデザイナーとして「声」の力を重視したコミュニケーション術を用いて、人材教育の講師およびプライベートコーチングを行う。また、健康経営やモチベーションアップの大切さを説くセミナーを行い、企業や自治体に支持されている。日本医療腸育普及協会理事として「医療腸育」の普及に務めている。
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