「キャリア女性に力を与える服を作り続けたい」AKIKO OGAWA.デザイナー小川彰子:FUMIKODA WOMANインタビュー vol.03
「FUMIKODA WOMANインタビュー」では、さまざまな仕事の現場で活躍する女性たちへのインタビューを通し、仕事への取り組み方から、生き方やライフスタイルまでをお伺いします。今回は、エッジィかつフェミニンなスタイルで人気を集めるファッションブランドAKIKO OGAWA.のデザイナー、小川彰子さんにお話を伺いました。聞き手はFUMIKODAのクリエイティブディレクター幸田フミです。
中学生の時からの夢を叶え、28歳でブランドを設立
幸田フミ(以下、幸田):彰子さんは会社勤めされた後に独立したご自身のブランド「AKIKO OGAWA.」を立ち上げて18年続けてこられました。さらに最近はランジェリーラインもプロデュースされています。常に前向きに挑戦されている彰子さんの姿勢は、働く女性としても触発される所がたくさんあると思います。まず、独立をされるきっかけや経緯についてお聞かせいただけますか?
小川彰子(以下、小川):中学生からの夢はファッションデザイナーになる事でした。卒業式の文集にも書くぐらいです。高校時代はデザイナーになるためにずっと美大を目指して勉強していました。また、高校生の頃からジャンポール・ゴルチエが大好きだったので、当時から絶対にオンワード樫山(以下オンワード)に入ると決めていました。その後、最終的に美大はやめてファッションの専門学校を経てオンワードに晴れて就職することができました。そして、次の自分の夢は自分のブランドを持つことでした。
その1995年当時、オンワードでは組曲、23区、ワールドではOZOC、INDIVI、アンタイトルなど企画から製造、小売までを一貫して行うSPAビジネスのブランドで大成功していました。当時ワールドでは、デザイナーの田山淳朗さんを外部ディレクターとして起用し、100億、200億と売上を伸ばし、年間契約金が1本数億とか言われているような時代でした。百貨店のSPAの質が一気に良くなった時代だったでしょうか。そのような背景の中、大手に入りしっかり勉強する事は将来とても重要で素晴らしい経験になるのだと考えていました。そして独立はいつかタイミングを見て絶対にしたいと思っていました。
オンワード時代、主にはポール・スミスのライセンス企画のアシスタントを担当していて、任せてもらったジーンズラインではデニムの生産数100本のところを4000本になるほどまで成長させることができました。売上も伸びたので、若かった自分としては「私って結構やるんじゃない」と思っていました。しかしオンワードは、若手にはなかなかチャンスが回らない企業風土でした。なので26歳か27歳の時にサンエー・インターナショナル(以下サンエー)に転職しました。
サンエーではブランドの布帛企画デザインを、すべて任せていただきました。ところが、売上がちっとも作れなかったんですよね。企業デザイナーって売上を作らないと、なかなか日の目を見られないものです。それで、「あ、私ここではダメだな」と。このブランドは私に向いてない、いよいよ自分で始める時だ!と決めました。むしろこれは良いきっかけだと思い、28歳の時に退職して独立することにしました。独立した時が28歳だから3年がんばっても31歳、その年齢なら自分の会社が仮にうまく行かなくても、まだ再就職できるぞと。
幸田:サンエーに移られた後に売上が作れないことで、自信喪失はされなかったんですか?
小川:その時担当していたのがカジュアルなブランドで、本当の私は、カジュアルな衣料がそこまで好きじゃなかったんですよ。カジュアル好きの気持ちが分かりきれなかった。だから自分には向いてないなと割り切っていました。私は昔からジャンポール・ゴルチエが好きで、特にジャケットなど重衣料が好きだったので、“自分のジャケット”を作りたいと思い独立しました。2000年に会社を立ち上げて、2001年にパリで展示会デビュー、東京コレクションに参加したのは2002年の春夏からです。
ビジネスとしても出だしからスムーズに行けたのは、オンワード時代の取引先の方に良くしていただいたことと、会社員時代にタイミングが重なって、デザイナーでありながらも生産や企画担当者がやるような仕事の経験ができたことが大きかったです。在庫管理もやりました。それから入社3年目の時に受けた主任試験の内容が、原価率の計算や商売の形態のベースだったので、その時に勉強した知識も独立した時に役立ちました。縫製工場に依頼する際にも自分で生産オペレーションしていた経験を生かし、初めてのコレクションは百貨店に対応したきちんとした顔の商品を作れていたのだと思います。
ラッキーなことも続きました。初めての展示会はパリで行いたいと思っていたので、当時、新人の登竜門といわれた「WORK SHOP」という合同展示会の面接を申し込み、オーガナイザーのマダムに商品を気に入ってもらい、「来シーズンから来なさい」と即インビテーションをいただきました。そこで2001秋冬のファーストコレクションから出展し、バーニーズ、西武、東武、アクアガールとの商売がどんどんに決まって行ったのです。エストネーションはオープン当時から入れてもらって、今も途切れなくお付き合いさせていただいております。本当に運も味方してくれました。
幸田:それは製品がとても良かったからですよ。
小川:既製品らしい品質だったことと、きれいなテーラードのスーツを作っているという意味ではコンサバだけど、少しエッジィな所が気に入っていただけたのかなと思います。
幸田:今でもそうですよね。エレガントだけど、どこかエッジィで、ありそうでないデザインだと思います。
小川:割とうちのお客様は、外見が華やかな方かメイクとかは控えめでも自信にあふれた方が多いですね。それがAKIKO OGAWA.を着ることで、さらにアップグレードするんです。
幸田:そうですよね。女性が身につけるものを選ぶ時の基準って、自分が自信を持って人前に出られるかということが大きいと思います。
小川:お客様層としては総合職の人が多いです。それも銀行とかちょっと硬いお仕事の方。外資系の方が一番多いでしょうか。
苦難も“良い転機”ととらえ、時代に合ったビジネスを展開
幸田:AKIKO OGAWA.のブランドを立ち上げてから、今年で18年目ですよね。長く続けていくにあたって一番苦労されたことはどんなことでしょうか?
小川:それこそ人気商売ですから、ブランドを立ち上げてからの18年間の中にガーッと上がった時もガーンと下がった時もありますよ。ガーッと上がる時は、ただ進むだけですけど、やっぱり落ちた時しんどいですよね。
例えばレナウンと業務提携して合弁会社アキコオガワデザインスタジオを作り、「a primary (アプライマリー)」というセカンドラインを展開していた時期がありました。当時は百貨店で十数店舗を展開し、また、ニューヨークコレクションにも参加し、華やかに事業を行っていましたが、2009年にレナウンの経営の事情で合弁会社は解散となり、もう一度自主運営に戻ることにしました。大きな組織から自主運営になるのは大きな変化でした、多くいたスタッフのリストラなど、なかなか大変な苦労でした。その後震災もありましたし。
ですが、今は事業をコンパクトにしたことで、程よいスケールになっています。プライベートなところでは、結婚して子どももできたので、以前と比べると稼働できる時間も限られます。だからそれを機にギュッと縮小して、お洋服のラインも無駄なものは省き、今展開しているような“華やかなオフィススタイル”にフォーカスしました。そしてそれがすごく好評で数値的な結果にもつながっています。
AKIKO OGAWA. 公式サイトより
幸田:規模を縮小されたことで、ブランドアイデンティティがしっかり固まったのですね。
小川:そうなんです。品番数を少なくし、固定の売り場だけでしっかりやることにして、今は新規も特に開拓していません。デパートから出店を打診されまることもありますが、コストとリスクが大きくなるので出店はしていません。洋服は2、3カ月のサイクルで商品が入れ替わってしまうので、しっかり販売できる販売員の教育という仕事が新たに発生しますよね。だから今の商売形態は自分にとても合っていると思います。
現在、同世代の多くの女性たちは会社や組織の中でキャリアを積み、会社の中枢でも活躍する女性が増えています。AKIKO OGAWA.の服は実際にそういう地位にいるお客様にとても喜んでいただけています。また最近では、新しいお客様のママ層にもマーケットが広がりつつあります。今まであまりネイビーのアイテムは作っていなかったのですが、ネイビーのアイテムを作ったら一気にママ層からも支持していただけるようになりました。
幸田:お受験用ですか?
小川:幼稚園や学校に行く時用です。私立の幼稚園に通わせているママ達は普段着も全部ネイビーなんですよ。だからシャープなラインのネイビーのスカートセットアップなどは、甘すぎるスタイルを好まないママたちから好評なのです。
幸田:今の女性は色んな立場を兼務している方が多いですよね。そこでオールマイティに着られる洋服って案外少ないのかもしれません。そういう意味では彰子さんのお洋服って、会食にも着ていけるし、会議にも着ていけるし、学校に着ていっても浮かないので多くの方のニーズがある気がしますね。
小川:特にシャープ系華やか担当としてですね。でも意外とそういう服が少ないのは確かですよね。日本で“華やかな服”と言うと、もっとフェミニンなものになりがちじゃないですか。リボンがついてふんわりシルエットとかキラキラした装飾がたくさんついているとか。かといってコンサバな四角い服を着ると余計老けて見えたり(笑)
パワーウーマンたちの力になる製品を作り続けたい
幸田:今のお洋服は彰子さんの目線で、ご自身が必要としているものを作られていると思いますが、過去にプロデューサーとして自分自身がターゲットではないブランドを手がけた時も次々と大ヒットを飛ばしていらしたと伺いました。そのように時代を読む力は、どこから得られているんでしょうか?
小川:最近だと結構ヒットしたのが、AOKIのレディーススーツです。そこでは、パターンなどからものづくりの基本を正すことをしていました。背景としては、AOKI社内にパターンなどがわかる人がいなくて、すべてODM(Original Desingn Manufacturer)任せでした。商社が生産した商品を発注するという形です。
商社のパタンナーさんが作ったところでAOKIサイドからすると、どこをどうすれば美しく、着心地良く修正ができるのか分からないため、デザインからパターンの修正に至るまで、シルエット及び着心地の調整を行い、実際着心地が良く、美しいラインの商品がプロデュースされました。そういったスーツを着用する時に最も重要な、見た目、着心地、シルエット、という実なところでお客様からの評価が上がりレディースの売上を伸ばすことができました。
幸田:プロデュースされる時は、そこに何が足りてないかを見抜いているのですね。
小川:そうですね、最近ではシルエットの美しさを期待され、求められているという感触があります。今はカジュアルな服が主流になっているので、きちんとシルエットを取らなくても何となく雰囲気で行けてしまう。今は重衣料を作っているデザイナー自体も少ないですし、私の考える体に沿った服はすごく緻密に作らないと、ただ着にくいピタピタの服になってしまいます。私は今でも自分の原点であるジャケットをずっと作っていますが、ジャケットを中心に物作りしているブランドは今とても少ないですね。
幸田:彰子さんはお洋服をこれからもずっと作って行かれると思いますが、ご自身のミッションのようなものはありますか?
小川:この間来ていたお客様とお話をしたら、その方は弁護士の方で、「来週に法廷があるから、このスーツを着ていく」とおっしゃっていました。そういうパワーウーマンに向けてのパワースーツを作っていきたいですし、そのコンセプトの部分を一層皆さんに知って頂けるようになりたいなと思います。
幸田:キャリア女性が身につけることで自信を持てるようなアイテムをプロデュースされることですね。
小川:そうです。私の知り合いに外資系投資銀行でマネージメントダイレクターになるためのトレーニングをやっている方がいらっしゃいます。その方が言っていたのは、やっぱり第一印象は見た目60%。初めて会った時の外見はすごく大事だということです。髪型や服装が奇抜になりすぎてもよろしくないし、だからと言ってシンプルな地味なスーツではマネージメントダイレクターにはふさわしくないらしく、程良いセンスも相手に対して高感度を高めるために必要だということです。そのお話を聞いた時に、なるほど、と共感しました。外見を整えることで、更に一層力が湧いてくる。特に外資系の人はそうなのかもしれないですね。
幸田:そこはAKIKO OGAWA.のブランドが力になれそうな所ですね!
小川:そう! そこは力になりたい。AKIKO OGAWA.のスーツは年齢やキャリアによって複数のラインがあるんです。
AKIKO OGAWA. Facebookページより
まず入り口のスーツがテーラードスーツ。これは30代半ばぐらいの営業職向けイメージで、もちろん仕事にもよりますが、パリっと仕事ができる女に見える、見た目年収1000万スーツ。
その次にマネージャークラス向けイメージのスーツ。部下の女の子たちとはちょっと違うデザイン襟やノーカラーのデザイン、スーツでなくても職場に行ける少し余裕のあるスタイル。
さらにエグゼクティブ向けをイメージしたエレガントなライン。例えば女性経営者はテーラードのスーツよりも、丸首のジャケットなどの少しエレガントなデザインを好まれます、30代はパリッと攻めてる感じだったの方も、エグゼクティブの余裕を感じるシャープさはありつつも少し柔らかいエレガントなスーツスタイルを選ばれる方が多いです。
プレタポルテのスーツ3ラインに加えて、新宿伊勢丹店舗で行われているパターンオーダーのラインもあります。デザインはテーラード、ノーカラーなどバリエーションもあり、生地はゼニアやドーメル、ロロピアーナ、など高級生地メーカーからのセレクトに加え、国産のお手頃のものまでと色々用意しています。今はイギリスLINTON社のツイードもありますので、フェミニンなツイードの丸首ジャケットもお作りいただけます。
このようにAKIKO OGAWA.のシックだけど華やかでベーシックすぎないスーツは、さまざまなポジションの女性を応援できるように4つのラインをイメージして作っています。実際「ここぞというプレゼンに着ていくために買う」といった方が多いことがとても嬉しいことです。
幸田:お話を伺えば伺うほどFUMIKODAのコンセプトに似ていると思いました。確かにその路線で行かれると、どんどんファンも増えていくような気がします。この先もっとエグゼクティブ女性って増えていくはずですから。しかも、ママになったり出世したりと、人生のステージによって立場が変わっていっても、AKIKO OGAWA.のジャケットなら勝負ジャケットとして信頼できるブランドだと思います。
小川さんにお使いいただいているのはFUMIKODAのTALAホワイト&ベージュピンク
小川彰子さんプロフィール
桑沢デザイン研究所を卒業後、企業デザイナーを経て、2001年独立し「a primary AKIKO OGAWA」ブランドを設立。同年3月パリの展示会「WORK SHOP」にて2001秋冬コレクションを発表し、10月には東京コレクションへデビュー。 2005年2月にニューヨークコレクションへ参加。同年秋冬からコレクションラインを「AKIKO OGAWA.」とし、また2006年春夏からニューヨークとパリで展示会を開催するなどグローバルに活躍。
2009年9月「AKIKO OGAWA International Inc.」を設立。オーダースーツなどビジネスシーンを中心としたコレクションを発表、スーツラインは国内百貨店を中心に展開中。2016年にはランジェリーラインもスタートし、2017年にはパリのランジェリー総合展示会にも出展。
デビュー以来、「美しさのなかの強さ」というような、相反するものを結びつけた時に生まれる美しさにフォーカスし、柔らかな曲線と凛とした力強さを兼ね備えた、知的で上品なセクシーさが女性を美しく魅せる、ということをコンセプトにデザインをしている。
シグニチャーでもあるマスキュリンなテーラードは構築的なフォルムとカッティングにこだわりを持ち作り込み、女性らしさを融合させたスタイルが働く女性の支持を集めている。
AKIKO OGAWA. 公式サイト:http://www.akikoogawa.com/japanese/