知らないうちに非常識な人になっていませんか? 文化圏によって異なる海外旅行マナー

旅行や出張で海外に行くと、思わぬカルチャーギャップに遭遇することがあります。日本で外国人の振る舞いを見て時々「あれ?」と感じるのと同じことを、私たち日本人に対して現地の人が感じている場合があるかもしれません。

何気ないジェスチャーや行動がトラブルの元になることも

海外では、ジェスチャーを交えて会話をすることが多いです。それだけに日本人にとっては無害と思われるポーズやジェスチャーが、思わぬ意味に取られることもあります。

たとえば腕組みをしているポーズは、日本では「考え中」のポーズとされることが多いのですが、欧米では「私は警戒しています」というジェスチャーになります。誰かと会っている時にやると、不信の意志表示になりますし、公共の場でも警戒心を丸出しにしているように見えるので避けた方がいいでしょう。

また、アジア圏では「おいでおいで」という意味の手招きのジェスチャーは、欧米だと「あっちに行け」と、日本とは正反対の意志表示になってしまいます。欧米で手招きをする時は、手のひらを上に向けて手招きをします。ところが、これと同じ型で人差し指を動かして相手を呼ぶポーズは、フィリピンだと侮蔑の意志表示になってしまいます。どうやら万国共通の手招きのジェスチャーはなさそうです。

数字を示すジェスチャーも要注意です。例えば「チケット2枚ください」という時などに裏ピースをすることはありませんか? アメリカで裏ピースはギャングスターのポーズ、イギリスでは拳に中指を突き立てる「FCK YOU」と同じ意味に取られます。HIP HOPやパンク・ロックカルチャーの人同士ならいいかもしれませんが、一般的には品がない、もしくはケンカを売っていると思われるので避けた方が無難です。

一言で欧米とは言っても、それぞれの国によって事情が少しずつ変わります。例えばナチス政権やホロコーストという、当人たちにとっても半ばトラウマとなるような歴史を持っているドイツでは、ナチスやヒトラーを想起させる物事はすべてNG。日本人のアイドルのコスチュームがナチスの制服のようだと、世界中で物議をかもしたことを覚えている方もいらっしゃると思います。そんなドイツで、うっかり右手を斜め上に挙げると「ハイル・ヒットラー」のポーズとみなされることがあります。冗談でもやってはいけません。

以前、各国によって常識が異なるテーブルマナーについてお届けしましたが、フランスでは、人前で口の中に舌を巡らせるのもNGだとされています。食事をして歯の奥に物がつまると、ついやってしまいがちですが、その時はレストルームに行くかナプキンで口元を隠しながらやるのが良いでしょう。

イタリアにも知らない人にとっては意外なマナーがあります。例えばミラノなどに行って、ウキウキ気分でショッピングをしている時に、店頭置かれたアイテムを店員の断りなしに手に取るのは、絶対にしてはならないマナー違反だとされています。店員から「ご用は何でしょうか?」と声を掛けられるので、何を探しているのかをちゃんと答える、もしくは気になる商品があれば「見ても構いませんか?」と必ず声を掛けましょう。これは洋服だけでなく、何を販売しているお店でも同じことです。

「どうして日本人はみんなマスクをしているの?」

風邪予防や花粉症の際にはいつもお世話になっているマスク。最近ではなかばファッションのようにつけている人も見かけるようになりました。しかし、欧米人からして見ると、これは非常に奇妙な光景です。というのも、欧米では病気の予防という概念が日本と比べると希薄で、マスクをしている人は伝染病にかかった人という認識だからです。

20113月に起きた東日本大震災の際には欧米でも被災地の様子が報道されていました。ところが避難所で焚き火を囲んで暖を取っている被災者の多くがマスクしていたため、一部のフランスのメディアでは「日本で起きた震災の被災地では伝染病が広がっている」と報じられてしまったそうです。

そもそもマスクをしなければならない程、風邪をこじらせたり病気になっている場合には、人前に出てくるべきではないというのが欧米人の考え方です。しっかり家で静養するべきだし、無理をして仕事の場や人前に出るのは、むしろ迷惑なことだと思われます。あるいは知らない人からすれば、マスクをして顔を隠さなければならない事情がある不審者だと思われることがあります。

飛行機に乗ると、顔が乾燥しないようにマスクをしている日本人女性をよく見かけますが、もし隣に座っているのが欧米人なら「私、病気の人の隣に座ってしまったみたい。感染したらどうしよう」とドキドキさせてしまっているかもしれません。

知っていれば怖くないイスラム文化

最近はドバイやアブダビ、カタールといった中近東も人気の観光地になりました。アジア圏ではインドネシアが世界で最もイスラム教徒が多い国として知られています。日本とはかなり文化や習慣が違うイスラム圏で過ごすには、どのようなことに気をつければいいのでしょうか?

まず、ムスリム(イスラム教徒)は男性であっても女性であっても、人前で肌を見せることを極端に嫌います。そのため中近東に住むムスリマ(イスラム教徒の女性)は、アバヤと呼ばれる頭からつま先まですっぽりと覆う民族衣装を着て外出します。旅行者の場合は、ドバイなどの観光地にいる限りそこまで気を遣わなくても問題ありませんが、ミニスカートやタンクトップなど、極端に身体の線が出る服を着ることは避けた方がいいでしょう。

ただし、一言でイスラム圏と言っても、国によって戒律の度合いは大きく異なります。例えばトルコは比較的戒律がゆるやかなので、半袖くらいであれば肌を出しても問題ありません。ドバイやアブダビは中近東なので、もう少しストイックです。ショッピングモールなどにも「肩や胸、膝を出すようなファッションを控えてください」という表示があるので、ゆったりとした長袖のロングワンピースくらいがちょうど良さそうです。

しかし、戒律がより厳格なイランやサウジアラビアは、旅行者に対しても服装の制限が厳いので、しっかり事前にリサーチをしてから行きましょう。例えばイランでは、外国人であっても女性が顔と手以外の肌を出すことは禁じられているので、ゆったりとしたラインのパンツかロングスカートと長袖の服を着て髪の毛が見えないようにスカーフを巻きましょう。メッカのあるサウジアラビアは最も戒律が厳しいため、入国した人は例外なくアバヤを着て行動しなければなりません。

アバヤやブルカ(アフガニスタンの外套)は、特に欧米のメディアでは女性への圧力の象徴であるかのように報道されがちです。しかし、中近東の都市化が進んでいない地域に滞在した経験のある方によれば、日差しが強く少し外に出ただけで服や髪の毛の隙間まで砂だらけになってしまう土地では、身体をすっぽり包む外套があることが便利に感じられたそうです。アバヤの中は何を着ていようと自由なので、ムスリマたちは屋内で思い思いのファッションを楽しむ一方で、身支度をするのがおっくうな時は、ノーメイク&パジャマの上にアバヤを着て出掛けることもあるとか。

イスラム圏で、もうひとつ気をつけなければならないのは写真撮影です。旅行に行くと、記念にたくさん写真を撮りたくなりますが、イスラム教は偶像崇拝を禁じている関係上、写真に対しては非常にセンシティブです。特にムスリムの女性を断りなく撮影すると、彼女の配偶者とトラブルになる可能性があるので注意が必要です。またモスクなど建物の撮影をする時も、一言断ってからが良いでしょう。

イスラム圏で最もイスラム教らしさを感じる時期が、ラマダンと呼ばれる1カ月です。ラマダン期間中は、日が昇っている間は飲食が禁じられているので、仕事もほどほどに、静かに屋内で過ごすのが一般的です。その代わり日が落ちると、イフタールと呼ばれるディナーで特別に盛り上がります。一般家庭でもちょっとしたごちそうを食べますが、観光地のホテルなどではラマダンテントというブッフェの会場ができ、豪華な中近東料理を食べることができます。

ムスリムではない外国人は、ラマダン期間中であっても断食の義務はありませんが、観光客向けに開いている飲食店は、断食中のムスリムに見えないように衝立や布などで覆われています。道ばたで水を飲む時も、目立たないように紙袋などで水筒やペットボトルを覆うのがマナーと言えるでしょう。

1カ月間のラマダンはムスリムにとっては祝福すべき時間。お互いに「ラマダンおめでとう」と挨拶をします。とはいえ、徐々にグローバル化して社会の仕組みが変わっていく中では、昔の習慣をそのまま継承するばかりでは生活や健康に支障が出てくる場合もあります。例えば白夜のあるロシアでは、一日のうち3時間足らずしか食事ができないので、中近東から離れた土地に暮らすムスリムのために教義の解釈が見直され始めています。

このように日本人からすると、何かと不自由が多いイスラム圏の習慣ですが、少し見方を変えると、これまで自分たちが当たり前と思っていた常識とは異なる文化や考えを体感する良い機会になるかもしれません。イスラム圏に限らず、日本人から見ると不思議に思える習慣や文化が生まれて、何百年も受け入れられ続けてきた理由は何なのか? そのようなことを、ほんの少しでも考えることは、文化圏が異なる土地を旅行することの醍醐味のひとつなのではないでしょうか。