ヴァン クリーフ&アーペルと京都伝統工芸の超絶技巧、その共通点とは?
1906年にパリで創業以来、独自のスタイルと優れた技術でハイジュエリーメゾンとして世界で高く評価されているヴァン クリーフ&アーペル。近年、同社では、保有するコレクションの中から選りすぐりの逸品を、年に一回、世界各国の美術館から都市と会場を選んで展覧会を行っていますが、今年は京都国立近代美術館で「技を極める―ヴァン クリーフ&アーペル ハイジュエリーと日本の工芸」が開催されています。
今回の展覧会は、ヴァン クリーフ&アーペルの歴史と技術を所蔵コレクションから紹介するだけでなく、現代日本の重要無形文化財保持者(人間国宝)による工芸作品や、ハイジュエリーと工芸とのコラボレーション作品も展示されている点も大きな特徴です。
ベル・エポックが生み出した優美な技術
ヴァン クリーフ&アーペルの歴史は、1895年に宝石カット職人の息子アルフレッド・ヴァン クリーフと、宝石商の娘エステル・アーペルが結婚し、1906年にフランスの首都パリのヴァンドーム広場で「ヴァン クリーフ&アーペル」を開業したことから始まります。
1925年のパリ万博博覧会(アール・デコ展)で薔薇の花のブレスレットを出展して大賞を受賞したことをきっかけに国際的な名声を高め、1930年代には、同社の高度な技術を象徴する「ミステリーセッティング」を特許登録しました。この技術は、宝石を留める爪を表から見せない特殊な技法で、現在まで進化を続けながら熟練した職人たちによって受け継がれてきました。
《バード クリップ》 1924年 ヴァン クリーフ&アーペル コレクション
プラチナ、エメラルド、サファイア、ルビー、オニキス、ダイヤモンド
Patrick Gries © Van Cleef & Arpels
千年の都が生み出した工芸
一方、1200年以上の昔から明治維新まで都として栄えてきた京都では、衣食住に関連した最高級の品々が生み出されてきました。たとえば衣は、十二単や小袖、辻が花、能衣装など、金襴を惜しげもなく使った装束が作られてきました。これらが制作された背景には、現在の西陣のような織物から染め物まで技術の粋が詰まった地域があり、長い歴史の中で育んできた熟練した技と心意気をもった職人たちが、さまざまな要求に応えてきたことがあります。
こうした職人技術によって生み出された作品は、近代になって、絵画や彫刻と同列の価値をもった日本独特の重要な作品として、「工芸」として評価されるようになりました。
四代長谷川美山 《京都名所図透彫飾壺》 明治-大正時代 京都国立近代美術館蔵
陶器、色絵金彩上絵付け
撮影:木村羊一
共通するのは、クラフトマンシップに対する敬意
作品にではなく職人を重要無形文化財保持者(人間国宝)として国が認定するようになったのは、日本が最初と言われています。そのことによって、特に明治の終わり頃からは個性を尊重した個人作家としての意識をもった工芸家が現れてきます。
それに対して、20世紀初頭に創業されたヴァン クリーフ&アーペルの仕事は、工房による分業制が現在まで行なわれています。かつて日本でなされていたものづくりのあり方が、逆に近代以降に設立されたハイジュエリーメゾンで今も息づいているのは興味深いことでもありますが、その「技」の極みによって生み出された作品の素晴らしさが、国や時代を超えて共有できるものであることは間違いありません。
さまざまな共通項をもつヴァン クリーフ&アーペルのハイジュエリー作品約80点と、日本の超絶技巧の七宝や陶芸、漆芸、均衡などの工芸作品約50点が一堂に会する本展は、フランスと日本の文化交流と融合の一端が見られるとともに、工芸の未来への新しい視点が生まれる可能性を秘めているともいえるでしょう。
《二枚の葉のクリップ》 1967年 ヴァン クリーフ&アーペル コレクション
プラチナ、ゴールド、ミステリーセッティング エメラルド、ダイヤモンド
服部峻昇 《玉虫香合 桐文》 2014年 ヴァン クリーフ&アーペル蔵
木、玉虫、蒔絵
撮影:江崎義一
こちらはヴァン クリーフ&アーペルのハイジュエリーと京漆芸の名品があわせて展示された様子です。特許登録された「ミステリーセッティング」によって留められたエメラルドと、漆に敷き詰められた玉虫の翅。法隆寺の国宝「玉虫厨子」に用いられた飛鳥時代の装飾である玉虫蒔絵は、漆芸における最高難度の技といわれます。本展では、洋の東西による超絶技巧のコラボレーションが堪能できるでしょう。
【展覧会情報】
技を極める―ヴァン クリーフ&アーペル ハイジュエリーと日本の工芸
Mastery of an Art: Van Cleef & Arpels - High Jewelry and Japanese Crafts
会期:2017年4月29日(土・祝)- 8月6日(日)
開館時間:午前9時30分~午後5時
4月29日(土)から6月30日(金) の金曜日、土曜日は午後8時まで開館
7月1日(土)から8月5日(土)の金曜日、土曜日は午後9時まで開館
*入館は各閉館時間の30分前まで
休館日:月曜日、6月13日(火)、7月18日(火)〔ただし7月17日(月・祝)は開館〕
会場:京都国立近代美術館(岡崎公園内)
〒606-8344 京都市左京区岡崎円勝寺町
主催:京都国立近代美術館、日本経済新聞社、京都新聞
後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
特別協力:ヴァン クリーフ&アーペル
観覧料:一般 1500円(1300円)、大学生 1100円(900円)、高校生 600円(400円)
※( )内は20名以上の団体料金
※料金はすべて消費税込
※中学生以下、心身に障がいのある方と付添い者1名は無料(入館の際に証明できるものをご提示ください)
※本料金でコレクション展もご覧いただけます
お問い合わせ:京都国立近代美術館 http://www.momak.go.jp/
〒606-8344 京都市左京区岡崎円勝寺町 電話:075-761-4111
テレホンサービス(展覧会のご案内)075-761-9900
Source: 京都国立近代美術館