キノコ栽培の知恵と経験を活かして作る日本初のマッシュルームレザー〜FUMIKODAの新たな取り組みVol.3

サステナビリティやSDGsの観点から、植物性素材を使用したヴィーガンレザーの開発が進められる中、海外のメゾン系ブランドを始めとする多くのブランドが採用し始めている「マッシュルームレザー」。


キノコの菌糸体(※)をもとに作られたマッシュルームレザーは、見た目はもちろん、質感や品質も動物性の革と変わらないと世界中で注目されています。
※菌糸体=土の中に張る根のような細胞のこと。

皮のなめしによる環境汚染の観点から、動物性の革の代用品としてヴィーガンレザーが活用されてきましたが、従来の製品は石油に由来する素材が使用されている事から、より環境に優しいバイオマス素材を活用したヴィーガンレザーの開発が進められています。

「MYCL JAPAN(マイセルジャパン)株式会社」は、国産のキノコのみで生成した全く新しいマッシュルームレザーの開発に約1年前から取り組んできました。
ヴィーガンレザーに含まれる石油由来成分の一部を植物性に置き換えるのではなく、レザーの全てを国産のバイオマス素材で製作することに挑戦しています。

この度MYCL JAPANの広報を担当する伊藤あきさんより「マッシュルームレザーMYCL(マイセル)」を通した社会課題解決への想いをうかがうことができました。FUMIKODAのコンテンツディレクター白井愛奈がレポートいたします。 

日本とシンガポールで共同開発する
国産マッシュルームレザー

白井愛奈(以下白井):MYCL JAPAN株式会社についてお伺いできますか?

伊藤あき(以下伊藤):MYCL JAPAN株式会社は、キノコ栽培コンサルタントの専門である「株式会社SALAI International Japan」、キノコ種菌の開発販売する「株式会社千曲化成」、キノコ用栽培袋・装置の製造販売する「株式会社サカト産業」、シンガポールでマッシュルームレザー製造の特許を持つ「Mycotech Lab」の4社で設立されました。

キノコの栽培技術を活かして、食用以外の製品を製造できないか日本側の3社で考えていた時に、インドネシアでマッシュルームレザーを生産していた「Mycotech Lab」と出会いました。海外ではキノコ栽培の技術に課題があったため、日本のノウハウを提供して一緒に国内で研究・生産を始めることになりました。

循環型の新素材「マッシュルームレザー」

白井:なぜマッシュルームレザーを開発されたのですか?

伊藤:長野県に本社を置き、日本の優れたキノコ栽培技術を海外に広めているコンサルティング会社「株式会社SALAI International Japan」は、日本のキノコ栽培技術を海外の生産者に提供したり、キノコ栽培資材の輸出事業に携わっているため、キノコ栽培の知識と経験がありました。そのため、それらの強みを活かし、新たな事業領域へ挑戦したいという想いを抱いていました。
また、長野県はキノコ生産量日本一ですが、年々生産者は減少しています。キノコが食用以外で、新素材としての新たな製品価値を生み出し、需要が拡大する事で新たな信州の特産品を作りたい。という想いからマッシュルームレザーMYCLの開発を始めました。

長野県小諸市のMYCL Japan株式会社

白井:長野県に貢献されたいという熱い想いもあったのですね。マッシュルームレザーについて詳しくお伺いできますか?

伊藤:マッシュルームレザーは、菌糸体がそのまま生地になり、最低限のなめし工程のみで出来上がるヴィーガンレザーのことです。キノコの菌糸体の特徴を活かしたマッシュルームレザーMYCLは、耐火性・耐水性に優れている天然由来の生地です。

白井:マッシュルームレザーはどのように環境に優しいのでしょうか?

伊藤:皮革の腐敗や劣化を防ぐために施される「なめし」の工程では、水を大量に消費します。更に発展途上国における革製品の製造では、使用される薬品や獣毛、石炭などが混入した汚染水が川や海に流出する事例があり、深刻な水質・土壌汚染が問題となっています。また、合成皮革の製造には大量の石油由来原料が使用されており、廃棄しても土壌中で分解されることはありません。
マッシュルームレザーMYCLは、土壌中での生分解性も備えるため、環境への負荷を大きく軽減する循環型の新素材として期待されています。なめし工程を含め、マッシュルームレザーMYCLは皮革製造の1/4の水量で作られていたり、製造工程で出る廃棄物(副産物)は、壁面パネルやブロック・オブジェなど建築に再利用できるなど、さらなる環境負荷の低減、サステナビリティにも繋がります。

白井:ものを循環させる仕組みが素晴らしいですね。MYCL JAPANでは具体的にどんな製品を作っているのでしょうか?

伊藤:現時点では、まだ製造の設備が追いついていないということもあり、30センチ四方の生地しか作れないため「キーホルダー」や「しおり」などの小物を試作しています。キノコ関連事業が本業であるため、プロダクトを製造するノウハウがなく、この度FUMIKODAさんと一緒にお財布やバッグの試作をさせていただくことになりました。

FUMIKODAでの試作品打ち合わせの様子
(左:FUMIKODA 幸田フミ、
右:MYCL JAPAN 乾馨太社長)

今後はMYCL JAPANオリジナル商品の製造販売も実施していく予定です。
ファッションや家具などのインテリアをはじめ、皮革製品は私たちの日々の暮らしに身近なものでありほかの素材に代えがたいと感じています。そのため、皮革と近い性能と質感を持ち、より持続可能な素材であるマッシュルームレザーを利用して、まずは私たちの身近に感じられる素材となるような製品の製造に取り組んでいます。

日本のキノコ産業への貢献を目指して

白井:マッシュルームレザーを製造するにあたって、苦労されていることはありますでしょうか?

伊藤:マッシュルームレザーをなめす作業は人の手で進めていく部分が多く、労働生産性に課題があります。日本だけでなく、インドネシアでも1日に約180枚程度の素材しか製造ができていません。
現在は成立・小諸市に本社を、千曲市に研究所を置いていますが、2023年夏には小諸への研究所の移転、新たな工場の開設が予定されているため、量産体制も整えていけるよう進めていきたいと思っています。

白井:MYCL JAPANのマッシュルームレザーの強みはどんなところなのでしょうか?

伊藤:弊社の生地は石油を使用したレザー素材の置き換えではなく「キノコのみでマッシュルームレザー本体を構成している全く新しい素材」ということが最大の強みです。
高品質で手頃なMYCL JAPANのマッシュルームレザーMYCLを、消費者の皆様にご提供出来るようこれからも研究開発を進めていきます。

白井:マッシュルームレザーMYCLが広く普及していくのが楽しみですね!
今後の目標があれば教えていただいてもよろしいでしょうか?


伊藤:将来的には国内のキノコ農家に弊社の技術を広めていき、日本のキノコ産業に貢献していきたいと考えています。また、日本において今までキノコは「食」という分野でしか注目がされていませんでしたが、世界を見渡すと、キノコは「住」の分野では断熱材として建築業で活躍したり、「衣」に対しては革新的なヴィーガン素材として注目されています。
キノコの生産大国として知られている日本でも「衣」「住」の分野でキノコの活用法を広げたいです。

☆☆☆


MYCL JAPAN株式会社が開発した国内初のマッシュルームレザーを使用したFUMIKODAの新しいアイテムをどうぞお楽しみに!
FUMIKODAは他にもバイオマス素材を使用した製品を開発しております。よろしければ関連記事もご覧ください。

 

伊藤あき氏 プロフィール
長野とキノコが好きで、長野へ移住したいと思っていたところMYCL JAPANの求人にたどり着く。2022年11月MYCL JAPAN株式会社の第一号社員として入社。
日頃から環境課題に高い関心を持ち「誰でも簡単に環境を良くすることができる」という信念のもと、MYCL JAPANのマッシュルームレザーを通して、環境にやさしい暮らしを提案している。

MYCL JAPAN
MYCL JAPANのブランド名は、ラテン語由来の菌糸の専門用語「mycelium(マイスィーリアム)」の「MYC」と「leather(レザー)」の「L」を組み合わせた名前となります。
キノコ関連専門企業の株式会社SALAI International Japan、株式会社千曲化成、株式会社サカト産業と、シンガポールでマッシュルームレザー製造特許を持つMycotech Labのジョイントベンチャーにより2022年7月28日に設立。代表取締役は乾馨太。キノコのノウハウを生かし、日本初キノコ菌糸由来かつMade in Shinshu, JapanのマッシュルームレザーMYCLを開発製造している。2023年夏、小諸市に新研究所・工場開設、移転予定。将来的には、自社オリジナルブランドを立ち上げ、日本のキノコ農家さんへのマッシュルームレザーの製造技術提携を推進予定。

MYCL Japan公式Instagram
MYCL Japan公式Twitter