人種や国籍、性別、年代といった垣根を越えた「MASH UP」を広めたい:今田素子氏 CLUB FUMIKODAイベントレポート
「やがて、すべての情報をデジタルで得る時代が来る」
20年以上にそう見据えて、オンラインメディアや企業のデジタルイノベーションにいち早く着手した株式会社メディアジーンCEOの今田素子さん。ここ数年は“多様化”を意味する「ダイバーシティ」を推進する事業にも力を入れています。
FUMIKODA SALONでは、IT業界にも身を置くFUMIKODA クリエイティブディレクター・幸田フミも公私にわたって“先輩”と慕う今田さんをお招きし、「多様化がイノベーションを加速させる」というテーマでお話しいただきました。
使命は「信頼のおける優良なコンテンツをつくること」
のべ300以上の企業や団体に関わり、デジタルを通じてイノベーション支援やマーケティング支援、セールス支援を行う「infobahn(インフォバーン)」と、10ものオンラインメディアを運営する「mediagene(メディアジーン)」の創業者であり、現在はCEOを務める今田さん。
お話の冒頭では、今田さんがデジタルに関わっていった経緯や会社の歩み、業界における使命などについて語られました。
とくに、紙媒体がウェブメディアに移行し、そのウェブメディアが淘汰されて生き残りのために試行錯誤をしている今、いくつものメディアを手掛けるなかで今田さんが“使命”だと感じているのが、「信頼のおける優良なコンテンツをつくること」。
「信頼できる情報を得ることは、私たちひとりひとりの権利であるといえます。そのためにはきちんとした情報を発信する新聞社や雑誌社といったパブリッシャーに収益が還元されなければいけません」と今田さん。
世界中の広告主を悩ませ、出版業界への収益還元を妨げている「フェイクニュース」や「不正広告」の問題点についても詳しく解説され、読者やユーザーである自分たちも、ウェブメディアや広告との関わりを見直す必要があると感じさせました。
「女性からはじめるダイバーシティ」を掲げて
メディアジーンが運営しているのは、『ギズモード・ジャパン』『ライフハッカー[日本版]』などのほか、2017年1月には世界17カ国で親しまれるビジネスニュースサイト『BUSINESS INSIDER(ビジネス・インサイダー)』日本版を創刊したことでも話題を集めました。女性なら『マイロハス』や『カフェグローブ』と聞けばピンとくるかもしれません。
2019年春には、カフェグローブがダイバーシティの推進を目指す『MASHING UP』にリニューアル。社会やウェルネス、ソーシャルグッドなどの活動に従事する人や企業の取り組みを紹介するメディアと、「MASHING UP」というビジネスカンファレンスとのふたつの役割を担い、ダイバーシティを推進するプロジェクトとして生まれ変わりました。
ダイバーシティとは人種、国籍、業種、性別、年代といったさまざまな垣根を越えた“多様性”を意味しますが、「MASHING UP」は“女性からはじめるダイバーシティ”を掲げています。
「以前から、“女性”経営者と言われることに抵抗があったんです。男性経営者とは言わないのに、どうして“女性”であることだけが強調されなければいけないのか。そう思って調べてみると、あるジェンダーギャップの調査では、日本は114カ国中114位。1986年に男女雇用機会均等法が施行され、何十年が経ってもこのありさま。あまり気にしたことはなかったのですが、このときはさすがにおかしいなと思いました」
そんなとき、国内外でダイバーシティ(多様性)を推進する人たちとの出会いも後押しとなり、スタートさせたのがビジネスカンファレンス「MASHING UP」。2018年2月に始まり、2019年11月7・8日には第3回目を開催。世界中から100名を超えるゲストスピーカーをお迎えし、セッション数は約70。来場者は1,000人にものぼります。
MASHING UPの様子(MASHING UP公式サイトより)
「ダイバーシティをテーマにしたカンファレンスでも、経営者をターゲットにしたものだと99%が男性ということもあります。逆に女性のカンファレンスだと100%女性ということも。それに比べるとMASHING UPは男性40%、LGBTの方の参加も多くて、一方的に話を聞くだけではなくワークショップやメンタリングセッションと内容もバラエティに富んでいます」
FUMIKODAの幸田も「ダイバーシティとは、男女格差だと思い込んでいましたが、その思い込みが取り払われたような気がした。自分とは異なるさまざまな価値観にふれることができる貴重な機会。2日間で1年分ぐらい活性化されるというぐらいのパワーをもらえる」と絶賛。過去2回は登壇する機会もいただいています。
ますます盛り上がりを見せる「MASHING UP」ですが、「ダイバーシティという言葉があと3年ぐらいでなくなってくれればいいなと思っている」と今田さん。
「なくならないまでも、ダイバーシティをテーマにイベントをしなくてもいい、あたりまえの時代になってほしいと思いますね。人種、国籍、業種、性別、年代の違いを超えた価値観があたり前のこととなり、それぞれの目線と目線が交わることで、人と社会にイノベーションがもたらされることを願っています」
社会課題の解決が、ビジネスに直結する時代へ
今後、今田さんが力を入れていきたいと語るのが、社会課題を解決するための企業のサポート。これまで新しいプラットフォームやサービスの構築などという面から企業のイノベーション支援を行ってきましたが、これからは「社会課題を解決することがビジネスになる時代になっていく」と話します。ここ数年、ヨーロッパを中心に世界のさまざまな企業がサーキュラーエコノミーを経営の中核に据えていますが、それもひとつの例です。
このFUMIKODA SALONが開催される数日前まで”導かれるように“インドを訪れていたという今田さんが、インドで社会課題の解決に取り組むテクノロジーベンチャーの事例をご自身が撮影した写真とともに紹介してくれました。
生産農家と提携して個人宅に生鮮食品や日用品を直接届ける企業、人ではなく物を運ぶトラックやオートバイの配車システムを提供する企業のほか、興味深かったのはシングルマザーに出資して起業をサポートする実業家のお話。出資したお金はほとんど戻ってくるほどの成果を挙げているのだとか。
「インドには、貧困、インフラなどのさまざまな社会課題が山積していますが、それらを解決することがインドではそのままビジネスに直結し、ユニコーン企業もいくつも出てきています」
中流階級が年に2000万人も増えるという勢いでめざましく発展を続けるインドのこれからはもちろん、日本でどのような動きが高まっていくのかも期待されます。
会の最後には、今田さんの話に耳を傾けていた皆さんが、”ダイバーシティ“について話し合う場面も。さまざまな立場の考えが”MASH UP(混ぜ合わせ)“された有意義な時間となりました。
今田 素子(いまだ・もとこ)
株式会社メディアジーン代表取締役CEO。同志社大学経済学部卒業後、イギリスの Sotheby's にて History of Art course 修了。株式会社同朋舎出版に入社し、1994年には『WIRED』日本語版を創刊。1998年にグループ会社の株式会社インフォバーン、2008年に株式会社メディアジーンをそれぞれ設立する。2015年、インフォバーングループ本社代表取締役CEOに就任。メディアジーンでは『GIZMODO』『ライフハッカー[日本版]』『BUISINESS INSIDER』『MYLOHAS』『ROOMIE』や、ダイバーシティ推進プロジェクト『MASHING UP』など、10ものメディアブランドを展開している。