いざという時の準備、していますか? 税理士が教える、もめない遺産相続の極意:FUMIKODA SALON : June 2017レポート
去る6月30日に「FUMIKODA SALON : June 2017」が開催されました。今回は税理士をされている木村三恵先生をお迎えし、FUMIKODA世代が考えておきたい「遺産相続」についてお話をいただきました。ともすればドラマの題材のようにドロドロしたイメージを持たれがちな遺産相続ですが、きちんと家族でコミュニケーションを取りながら準備をしていくことで、親の人生を共に振り返ったり家族の歴史を次の世代に継承することにつないでいくことができます。では、具体的にどのようなことを考えていけばいいのでしょうか? 木村さんがご自身の経験も交えて語りました。
木村三恵先生(以下木村):税理士をしている木村と申します。今回は相続についてお話します。たぶん皆さんにとっても身近な話題だと思いますが、実は私も今年の2月に母を亡くしました。今まで仕事で相続に関わる案件にも携わってきましたが、いざ自分がそういう状況に置かれてみると、生前に準備しておけばよかったと後悔することがたくさん出てきました。
まず葬儀屋さんについて事前に調べておけばよかったと思いました。というのも亡くなって30分くらいは家族で悲しむ時間を持てるのですが、その後すぐに「どこに搬出しますか?」と聞かれるんですね。私の父は今85歳で、母は享年80歳という年齢でしたから、もう少し早い段階で死亡後の手続きについて確認をしておけばよかったです。
それから、故人の預貯金の整理も準備がないと大変なものです。私の母は、たくさんの銀行口座を持っていて、しかも色々な請求が別々の口座から引き落とされるようになっていました。誰かが亡くなると、銀行に申請をして故人の口座に入っている預金を凍結する手続きをしなければなりません。その後は分割協議が整うまで、基本的にお金を引き出せない仕組みになっているので、後日「引き落としができません」という督促が、たくさん父の元に来てしまいました。事前に引き落とししているもののリストがあると、引き落とし口座の変更が簡単だったでしょう。
お葬式に故人の友達を呼べない!?
木村:一番後悔していることは、母の友達の名前と連絡先を把握していなかったことです。親との会話の中で、呼び名は聞いたことがあっても、正式な名前が分からない親の友人や知人の方っていますよね。私の場合も、母とすごく仲の良い友人だとは知っていても、正式な名前が分からない方がいました。ですから、遠方に住んでいる母の友達に訃報を伝えることもお通夜や葬儀の案内もできなかったんです。後からようやく分かって連絡をした時には、「もっと早く言ってくれればお葬式に行けたのに」と、かなりがっかりされてしまいましたから、そのことを一番後悔していています。
この問題は親のことに限りません。自分にもしものことがあった場合にも、あらかじめ友達や関係者に訃報が伝わるようにしておきたいものです。例えばSNSでつながっている人に「私が死んだ時は、Facebookで訃報を伝えていいよ」とあらかじめ言っておくといいかもしれませんね。あとFacebookには追悼アカウントがあります。これはアカウントの持ち主が亡くなった時に、登録しておいた遺族や近しい人が故人のアカウントを管理できるというもので、私は夫を登録しています。私にもしものことが起こった時は、彼を通してFacebook上でつながっている私の友達に伝えてもらえますから。そこで知った人がFacebookではつながっていない、他の知り合いたちにも伝えてくれるでしょう。
エンディングノートを活用しよう
木村:エンディングノートって皆さんも聞いたことがあると思いますが、これは当人の死後に遺族にとって必要な情報がまとまるようにできているものです。こういったものを親御さんに書いていただくにあたり、注意しないといけないことがあります。それは、お金の話題からは絶対に入ってはいけないということ。これは税理士としての実感です。我々子どもサイドからすれば、別にお金が欲しくて話すわけではなく、相続が円滑に進むように書いてもらいたいのですが、親御さんからすると、ビジネスライクで冷たい印象を受けるようです。こういう話をする時は、先ほどお話したような「葬儀の時、お友達に連絡ができないと困る」という類いの話題から入るのがいいと思います。エンディングノートにも親族一覧や友人知人のリストを書き込めるようになっていますから、一緒に書き込んでいくといいかもしれませんね。
また、入院の時に連絡してほしい相手と、葬儀の時に連絡してほしい相手ってちょっと違ったりしますよね。最期の時に枕元にいてほしい友人がいるか、葬儀に呼んで欲しくない人もいるかもしれませんので、そういった本人じゃないと分からないことを書いておけるようになってるんですね。ですから、「まずは、お友達のリストだけでも書かない?」って言って書き始めていただくのが一番いいと思います。
人って机に向かうと勉強し始めたりするじゃないですか。だからエンディングノートも最初の一歩を書き始めると、結構夢中になって次々と書いてしまうものだと思います。そして、だんだん全部埋めたくなってくる。最後におそらくお金の項目も書いてくれるはずです(笑)
大事だけれども手強い遺言書
木村:ところでエンディングノートは遺族が故人の残したものを整理したり葬儀の準備に使ったりするものなので、法的な効力はありません。法的な効力を持つのは所定の手続きで作られた遺言書です。遺言書には公証人役場で作成する公正証書の遺言書と自筆の遺言書があります。自筆の遺言書の場合だと、最初から最後まで全文を手書きで書いて、日付と印鑑が押してあれば有効になります。
遺言書の作成をお勧めするのは遺族同士のトラブルを予防するためです。親の相続と話は違いますが、遺言書は我々世代でも書いておいた方がいいものです。「自分が死んだ後は、配偶者に全財産を相続すればいい」といって何も準備をしていないケースが多いと思いますが、子どもがいない夫婦の場合、遺言書がない場合には夫の親御さんと遺産の分割協議をする必要が出てきます。さらに義理のご両親も亡くなられていると、今度は義理のご兄弟姉妹と分割協議をする必要が出てきます。これは仮に揉めなくてもちょっと嫌ですよね。お子さんのいないご夫婦の場合、あらかじめ自筆の遺言書を書いておくことをお勧めします。
さて、自筆の遺言書は、封筒に「遺言書」と書いて、白紙の用紙に自分の名前と生年月日と、「遺言者○○は、妻〇〇にすべての財産を相続させる。」という一文と日付を書き、印鑑を押せば有効になります。最初から、公証人役場まで親御さんと一緒に行くのは結構ハードルが高いと思いますから、まずは自筆の遺言書を書いてもらう所から始めて、少しずつ正式な形に整えていくといいかもしれません。
知っておきたい相続税対策
木村:次に相続税について説明します。まず課税の対象となるかどうかですが、基本的には、財産が、3000万円と法定相続人1人につき600万の非課税枠の範囲内であれば相続税はかかりません。例えば、配偶者と子ども2人の場合だと600×3で1800万、それに3000万を足して4800万。つまり4800万までの財産であれば非課税というルールがあります。でもこれだと、都内で持ち家があると結構引っかかってしまいそうですね。
ちなみに法定相続人となるのは、配偶者とお子さんがいる場合は、配偶者と子どもだけです。配偶者がいてお子さんがいない場合だと、亡くなられた方の親御さんと配偶者で分ける形になります。ご両親がもう亡くなっていてご兄弟がいる場合は配偶者とご兄弟とで分けることになります。さらにご兄弟が亡くなってそのお子さんいる場合は、その姪御さんや甥御さんが相続人になります。
財産の処分には相続人全員の同意が必要ですので、遺言書がないと、甥や姪と相続の分割協議をしない限りは、亡くなった方の預貯金も引き出せなくなります。
相続税の課税対象額に話を戻しますと、配偶者が取得する財産には特別軽減枠があり、1億6000万までは非課税となります。例えばご両親のうちお父様が亡くなられて、財産をお母様に全部相続した場合、その財産が1億6000万までなら相続税自体はかかりません。ですから今の時点でご両親が健在なら、そんなに心配される必要がないと思います。
ただし、その後お母様が亡くなった場合は、子ども2人だと法定相続人は2人ということになります。先ほどの事例で言えば、600×2なので1200万と3000万足して4200万が非課税枠となり課税対象額が増えます。これは自宅も入れての話です。最初の相続の時にお母様にすべて相続してしまうと、その時は税金がかからなくていいかもしれませんが、次の相続の時に納税が多額になるということになりかねません。
また、ご自宅で同居されている場合は、土地の分の相続税はかなり軽減が受けられて評価額の20%のみ課税対象になるというルールがあります。とは言っても今は親御さんとは別にご自分の家をお持ちというケースがかなり多いので、その場合だと軽減は受けられません。ですから、あらかじめご両親と自分の財産の状況を見ながら、相続税がどれくらいかかるかを1回試算してみるといいと思います。
最後に宣伝になりますが、私も所属しているソフィアネットという団体で『いっきにわかる! 身近な人が亡くなった後の手続き最新版』という本を出しています。身近な人が亡くなった後に、どういう手続きがどのようなタイミングになるかが一覧になっていて、分かりやすいので、もしご興味があったらぜひ買ってください。
まだまだ聞きたい相続税対策
相続税は持っている財産の形や状態によって変動します。それぞれのケースによって相続税の対策をどのようにしていけばいいのか? 会場から、さまざまな質問が出ました。
質問1:先日両親と流動資産と固定資産の話題が出ました。不動産を持っているのと現金にしておくのとで、税制上の違いや相続した時の違いはあるのでしょうか?
木村:それはあります。同じ1億の価値のものであれば現金は1億で課税されますが、1億の価値のマンションだと、6000万程度の評価で課税されます。これは、相続の時の建物の評価が売買価格ではなく、固定資産評価額に基づくためです。
また、それを賃貸に出していると更に軽減が受けられます。例えばマンションの建物だけで5000万の価値があるとして、固定資産評価が6割だとすると3000万くらいに下がります。それを人に貸しているとなると、借りている方に居住権があるため、すぐに処分できないことを加味されて、3割減になります。つまり3000万×0.7で2100万として評価されることになるので、相続税が下がるのです。
質問2:有価証券にすると相続税はどうなりますか?
木村:有価証券だとその時の時価とその月の前3カ月間の平均値の一番低い金額で評価されます。これは、いい時もあるんですけど、すごく値崩れしている場合もあります。相続協議している間にどんどん価値が下がるケースもあるので、有価証券にしておくのがいいか、現金化しておいて方がいいかを判断するのは難しいと思います。
木村三恵氏プロフィール
タクシア会計事務所 代表
一般社団法人相続オールインワン 理事
大学卒業後、大手スーパーに勤務。その後会計事務所に転職し、働きながら税理士資格取得。2006年に独立開業し、現在に至る。 クライアントは、不動産投資家、地主の方多数。豊かな人生のサポーターとして、法人や所得税にとどまらず、相続や事業承継のアドバイス等も行なっている。
参加者たちにとって改めて家族と自分の関係を見直すきっかけになりました。
会場で提供されたシャンパンはDuval-Leroy(デュヴァル=ルロワ)。6代目当主のキャロル・デュヴァル=ルロワは、経営者であり3人の子どもを育てるシングルマザーでもあります。
Writer: MIREI TAKAHASHI