働く女性のウェルビーイングライフデザイン 慶應義塾大学大学院SDM研究所 前野マドカ氏 ✕ 幸田フミ FUMIKODA SALONレポート
慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科附属システムデザイン・マネジメント研究所研究員で、EVOL株式会社 代表取締役CEOの前野マドカ氏。
幸福学研究の第一人者であり、旦那様の前野隆司先生と共に「幸福学」について研究されています。
今回、前野氏をFUMIKODA SALONにお招きし、「働く女性のウェルビーイングライフデザイン」をテーマに対談を実施しました。聞き手はFUMIKODAのクリエイティブディレクター幸田フミです。
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幸田フミ(以下、幸田): 今回のFUMIKODA SALONには、幸福学を研究されている前野マドカさんをお迎えしています。
私がマドカさんと最初にお会いしたのは、5、6年前ですよね。
前野マドカ(以下、前野):そうですね、そのくらい前だったと思います。
幸田 最近、ウェルビーイングという言葉が徐々に知られるようになってきましたが、私がマドカさんと初めてお会いした当時は、その意味について完全には理解できていませんでした。「幸福学」を研究していることをお聞きして、このテーマが学問として取り上げられていることにとても驚きました。
FUMIKODAは、「すべての人の働くシーンにウェルビーイングを届ける」というミッションを掲げており、ビジネスシーンで活躍する皆様を支援するための情報発信やイベントの開催にも力を入れています。
本日は「働く女性のウェルビーイングライフデザイン」をテーマに、さらに深く掘り下げたいと思います。
前野 ありがとうございます。
私の新著「働く私のウェルビーイング」でも、女性が直面する就職、キャリア形成、子育て、介護などのライフステージのターニングポイントにおいて、どのように自分自身を整え、幸せな人生を送ることができるかを探求しています。
本日はこのテーマについて皆様と共に考え、明日からの生活に活かしていただければ嬉しいです。
ウェルビーイングを実現することで、
社会貢献
前野 はじめに、ウェルビーイングについて簡単にご説明します。
ウェルビーイングとは、体、心、そして地域社会が良い状態であることを意味し、私たちが感じる「ハピネス」よりも広い視点での幸福を包含しています。
この深い幸福感は、人生を振り返ったときに「良い人生だった」と感じられるようなものです。最近では、幸福に関する認識が社会的にも進んでおり、多くの大手企業のトップが公に幸福について語るようになっています。
幸福に関する研究結果からは、幸せな人々は想像力や生産性、学力において高い成績を示していることが明らかになっています。
かつては心理学や宗教学などの分野で主に扱われていたこのテーマですが、こういった観点から現在はビジネス界でも非常に注目されています。
幸田 最近の研究では、幸福度が高まると営業成績が向上したり、会社の売上が伸びるといった結果も示されているようですよね。
このような実証的な成果が明らかになったことで、ビジネス界においても幸福に関する関心が高まってきていることにも納得できます。
前野 はい、そうですね。近年のビジネス界では、仕事とウェルビーイングが相反するものではなく、実際に補完し合うものだという考えが、徐々に浸透しています。
これまで資本主義社会では生産性の向上が最優先されてきましたが、技術の進歩が生活を便利にした一方で、多くの人が幸せを感じていないという現状もあります。特に日本では、うつ病や自殺率が高く、明るいニュースが少ないのが現実です。
仕事を楽しむことと、充実した人生を送ることは互いに補完し合えるものです。
自分自身が満たされていれば、他人を助ける余力も生まれ、社会全体が支援し合うことで国力の向上にも繋がると考えています。心と体の両方を整え、仕事も人生も充実させていくことが重要です。
幸田 確かに、自分自身が満たされていないと、他人を支援することは難しいですね。
一人一人がウェルビーイングを実現することで、それぞれが社会に貢献できるようになりますよね。
前野 みんなそれぞれの立場で様々な思いを持って生活していますが、私は全ての人が幸せに生きるべきだと考えており、ウェルビーイングがその実現の手段となると信じています。
私たちは時として、公の場で堂々と幸せに生きると宣言することを遠慮してしまうことがありますが、大人が幸せに生きていることを公言することで、子供たちは大人が楽しく働き、幸せを感じていると学ぶことができます。
大人たちは家庭での食事時や同僚との仕事中でも、自分が幸せを感じていることを声に出して共有することが重要です。こういった行動が子供たちにとっては明るい未来を描く手助けになります。
幸せなチームがより良い成果を出す
幸田 子供たちだけでなく、組織全体に対しても同じことが言えますよね。
前野さんと株式会社ポーラ代表取締役社長の及川美紀さんが共同で発表した「ウェルビーイングマネジメント7箇条 幸せなチームが良い成果を出す」でも、この点が明確に示されていますね。
私も拝読しましたが、この本では幸せなチームがいかに良い成果をもたらすかを具体的に説明されていて大変勉強になりました。
前野 ご紹介いただきありがとうございます。
ウェルビーイングを目指す理由は、幸せなチームがより良い成果を出すことが証明されているからです。
研究によると、心の状態が良好な人は想像力が3倍になり、生産性が31%向上するとされています。このようなメンバーがいるチームは、その影響を受けて全体のパフォーマンスも自然と向上します。さらに、ウェルビーイングは生産性だけでなく、創造性やイノベーションにも直接的な影響を与えます。
健康で幸せな従業員は新しいアイデアを生み出しやすく、これが長期的に持続可能な労働力につながります。したがって、ウェルビーイングは単に個人の幸福感を高めるだけでなく、企業の長期的な成功にも寄与する重要な要素です。
また、ウェルビーイングは個人だけでなく、組織全体にとっても極めて重要です。例えば、ハーバード大学の研究によると、心理的に健康な従業員を持つ企業は企業価値が高く、株価パフォーマンスも良好であることが示されています。
これらの研究結果を踏まえ、多くの企業が経営や人事戦略を見直し、ワークエンゲージメントの強化やストレスチェックなどを通じてウェルビーイングの促進に努めています。
幸せな社員がいることで、さまざまな問題が解決され、企業全体の健全性が向上するからです。
幸福度が上がる
「4つの因子」を意識する
幸田 前野さんご夫妻が提唱している「幸せの4つの因子」をご説明いただけますか?
前野 「幸福学」では、心の要因による幸せを「4つの因子」に整理し、これらをバランスよく満たすことで幸せを手に入れられると考えています。
ウェルビーイングな状態を保つために重要で、日常生活の中で積極的に取り入れてみることをおすすめします。
●第1因子:「やってみよう」因子(自己実現と成長)
夢や目標を持ち、たとえ叶わなくても努力したり成長したりして自己実現を目指す人の方が幸福度は高い。
●第2因子:「ありがとう」因子(つながりと感謝)
まわりの人との関わりや環境に感謝をし、人との信頼やつながりを築くことで幸福度が高くなる。
●第3因子:「なんとかなる」因子(前向きと楽観)
どんなこともポジティブに捉えて取り組んだり、自分の嫌いなところも含めて自己受容できたりする人の方が幸福度は高い。
●第4因子:「ありのままに」因子(独立と自分らしさ)
他人と比較せず、マイペースにやっていける人は幸福度が高い。自分らしさを押し殺しすぎてしまうと、幸福度は低くなる。
自己肯定が
ウェルビーイング実現の第一歩
前野 まず挑戦してみて欲しいのは、第2因子の「ありがとう」因子。この因子だけが「他者」という対象が必要です。はじめにこの因子を整えると他の3つも上手くいきやすいです。
感謝の気持ちを持つことが難しいと感じる人もいますが、実は、自分自身の自己肯定感を育てることがその第一歩です。自己肯定感が確立されると、他人からの賞賛を自然と受け入れ、他者に役立つ存在になりたいという願望が生まれます。これが感謝の気持ちへと繋がります。
自己肯定感を育てるには、「今日も一日がんばった」と自分自身を評価することも有効です。これは、日常生活を送るうえで多くの意識的な努力を自分が行っていると自覚し、その努力を認識する行為です。
他人から言われたことではなく、自分自身でそれを感じ取り実感することによって、真の変化を遂げることができます。このプロセスを経た人々は、ウェルビーイングな社会の構築に貢献する力を持ちます。
例えば、小さな子供が養護施設に預けられると、絶対的自己肯定感を形成するのが難しいことがあります。しかし、大人になってからでも、積極的に自己を肯定し、他者からの肯定的な言葉を受け入れることで、これは挽回が可能です。なぜなら、誰もが素晴らしい可能性を持ち、唯一無二で価値ある存在だからです。
自分自身や周囲の人々がその価値を認識し、互いに支え合いながら成長していく過程が、ウェルビーイングなライフスタイルをデザインする本質です。自己肯定感を高めることは、私たちの幸福感と社会への貢献を根底から支えるために不可欠です。
幸田 なるほど、自己肯定感を高めることがウェルビーイングを実現するための第一歩となるわけですね。貴重なお話を伺うことができて大変勉強になりました。
FUMIKODAも引き続き、ウェルビーイングな社会の実現を目指して活動を継続していきますので、どうぞよろしくお願いします。
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今回のFUMIKODA SALONでは、日々実践できる具体的なアクションを参加者の皆様にイメージして持ち帰っていただけるような会にしたいと考え、対談の後に「ウェルビーイングな人生を実現するために日々実践できること」をテーマに参加者の皆様でディスカッションを実施いただきました。
FUMIKODAでは、「すべての人の働くシーンにウェルビーイングを届ける」というミッションを掲げてビジネスパーソンのための情報発信やイベントの開催にも力を入れています。
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前野マドカ(まえのまどか)
EVOL株式会社代表取締役CEO。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科附属システムデザイン・マネジメント研究所研究員。IPPA(国際ポジティブ心理学協会)会員。
サンフランシスコ大学、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)などを経て現職。システムデザイン・マネジメント学、幸福学の研究者である前野隆司の妻。愛とWell-Beingにあふれた世界を創るための研究と実践を行なっている。
書籍
幸せなチームが結果を出す(日経BP、2023年)
しなやかで強い子になる4つの心の育て方(あさ出版、2022年)
ウェルビーイング(日経文庫、2022年)
そのままの私で幸せになれる習慣(WAVE出版、2020年)
ニコイチ幸福学 研究者夫妻がきわめた最善のパートナーシップ学(CCCメディアハウス、2019年)
月曜日が楽しくなる幸せスイッチ(ヴォイス、2017年)
FUMIKODA公式YouTubeチャンネル
前野マドカさん出演YouTube【プロフェッショナルのバッグの中身 Vol.2】