一流秘書だけが知っている、成功する会食レストラン選びの秘訣
キャリアを積んだ女性にとって人付き合いも大切な仕事です。特にエグゼクティブとの会食をセッティングする際には、さまざまな配慮が必要になります。今回は「こちら秘書室」の室長の渡邉華織さんにビジネスプロフェッショナルとして知っておきたい接待・会食セッティングの極意をお伺いしました。
すべての準備はリサーチから始まる
――接待などの会食の幹事をする際に、どのようなことに気を遣えばいいでしょうか?
渡邉:まずはリサーチをすることが一番大事だと思います。お相手にアレルギーがないか、控えている食材はないかなど食材の確認は命や健康状態に関わることなので必ずしましょう。それからその方の好みや、どのエリアが行動圏なのかなどを伺って決めていくのが一番間違いないと思います。
例えばひと昔前なら、接待と言えば和食の料亭に行くもの、年配の方をお呼びするなら、お料理は少量で薄味にするものだと言われていましたが、今は全然違います。80代の方でもお肉を好まれる方はたくさんいらっしゃいますし、今の若者が行くようなお店を選ぶとすごく喜ばれることもあります。あと、お酒が好きな方なら、そのお酒のジャンルによってお店を決めるのもいいですね。
それから可能であれば、当日とその前日に他の会食がないかも確認するといいと思います。例えばお肉がすごく好きな方でも、当日のランチミーティングなどでお肉を召し上がる可能性があるなら、夜の会食では避けた方がいいでしょう。先方に秘書がいるのであれば、「前後にお食事の機会を控えていらっしゃいますか? できれば同じような食事のジャンルを避けたいと思いますので、差し支えがなければ、お食事のジャンルだけ教えていただけますか?」と事前に確認しておくといいと思います。
今回お話しをうかがった渡邉華織さん(六本木ヒルズ ILBrio)
――先方が使われる交通手段によってもお店の選び方が変わりますよね。
渡邉:社用車やタクシーでいらっしゃる方なら、ちょっと離れた一軒家のお店だと特別感が出ますよね。公共の交通機関でいらっしゃる方なら、交通の便がいいところがいいと思います。あと、お店の敷地内のアプローチも確認した方がいいですね。例えば素晴らしいお庭がある料亭でも、足が不自由な方や杖をついている方にとって、石畳やコケが生えている道を歩くのは不安に感じるものです。最悪雨や雪が降ったりすると、足元が滑って危険なので、安心感のあるアプローチの所を選びます。
もうひとつ接待で秘書の人たちが気を付けているのは、たばこが吸えるお店かどうかです。今は多くのお店が禁煙になっていますが、定期的にたばこを吸わないとイライラする方にとって、禁煙のお店は本当に辛いもの。なので、ヘビースモーカーの人がいらっしゃる時は、近くにたばこが吸える場所のあるお店を選ぶ必要があります。そうでないと、大事な会食の時に、10分、15分その方が席を外して話が進まなくなってしまいますから。
一流店でも油断は禁物、初めてのお店の下見は必ずすること
――お店のサイトの情報だけでは、実際のところがよくわからないことがありますよね。個室と書いてあるので予約をしたのに、実際は薄い衝立しかなくて気まずい思いをしたことがあります。
渡邉:壁の厚さとかは見に行かないと分からないですよね。あとお店によっては、無理に人数を詰め込みたがることがあるので、これも注意が必要です。前に6人で予約をしようと下見に行ったら、4人用くらいの部屋を用意されそうになったことがありました。不安になる要素が出てきそうなお店であれば事前に見に行くことをお勧めします。一流ホテルや高級店、良心的なお店であれば、「その人数だとこの日は余裕のあるお部屋のご用意ができないので、別の日でしたら承れます」と向こうから言ってくれます。そういうお店は、お断りされたとしても逆にこちらのことを考えてくれているんだなと信頼感が増し、次回は是非利用したくなります。
ただ、今の飲食業界は高級店もふくめてすごく人材不足なので、このランクのお店なら大丈夫だろうと思っていても、稀に文化の違いで意思の疎通が難しい海外のスタッフが担当についてしまうことがあります。最近ある老舗の系列店で会食のセッティングをした時、私たちの部屋を担当するスタッフが外国の方でした。
その日はお酒が飲めない方がいらしたので、私はあらかじめ「周りに分からないように一番奥に座っている方にだけノンアルコールビールを出してください」と伝えておきました。接待慣れをしているお店だと、ゲストに気を遣わせないように、ビールならビール、ワインならワインと同じ色のソフトドリンクをさりげなく出してくれます。ところがそのお店のスタッフは部屋に入ってきた瞬間に「ノンアルコールビール、どなたですか?」と言ってしまったので、そこでまず会話が途切れてしまいました。
さらに食事の途中でお箸を落とされた方がいたので「すみません、この席のこの方がお箸を落としてしまったので、替えをお願いできますか」とそっと伝えに行ったら、後から入ってきたそのスタッフが、「お箸落とした人どなたですか?」と言ってお客様に恥をかかせることになってしまいました。
そういうこともあるので、一流店だからと安心せず、当日どういう人が担当していただけるか事前に確認をしたり、どういう会食の場なのかをお店の人に分かってもらうと安心です。お店の人を味方につけることが一番大事だと思います。他が良くてもスタッフの対応が望ましくないことで、それまでのリサーチと下準備がすべて無駄になってしまいますから。
お店選びの基準は、味が最優先ではない
——高級店はクオリティが担保されている一方で、予算の関係上なかなかそのお店を利用することができないこともありそうです。
渡邉:今は大企業でも接待費が削減されていて、予算がかなりシビアになっています。ですからホテルに入っているような高級店でも、こちらから「1人いくらでやってください」と言えば、その中でいかにいいサービスをしてくれるかを考慮してくれるケースが多いので、「このお店はこの予算じゃ無理だろう」と最初から思わないで、まずは相談してみることをお勧めします。一流ホテルのレストランでも、1人予算2万円でワインも入れてほしいと言えば、例えばお料理を1品減らすとか、飲み放題の品数を減らすなどの対応を提案してくれます。
――そうやってコミュニケーションを取っておけば、また次回以降も利用しやすいですよね。お店を選ぶ時は、他に何か基準はありますか? 歴史のあるお店がいいとか、新しくできたばかりで話題の店とか。
渡邉:お相手によりますね。接待慣れしていないベンチャー企業の若手経営者の方には、「ここはひとつ、今後のネタとして知っておいていただくといいかも」というお店を選ぶこともあります。逆に年配の役員の方を今風の所にご招待して、「いつも高級でステキなお店ばかりにいらっしゃっていると思いますので、今日はあえてここを選ばせていただきました」と伝えることもあります。
いずれにしても、なぜそこを選んだかという理由を必ず相手に伝えたほうがいいかもしれません。お互い知らない所に連れてこられるよりは、「私ここのお店大好きなんです。1回ご招待したかったんです」とか、「特別な方や仲良くなった方にだけご案内しているんです」と言われると嬉しいものです。逆に全然知らなかった場合も正直に、「まだ会食慣れをしていないので、一生懸命調べました」と伝えることで、逆に高感度アップにつながります。
あと若い経営者は高級な老舗に行ったことがない方が多いんです。新しくて今時なものはよくご存じですが、いざ目上の偉い方と会食をする時にふさわしい場に行き慣れていないというコンプレックスや恐怖感が実はあるので、そういう人たちと私が会食をする時には、「今のうちに経験しておいてね」という意味で老舗にお連れすることもあります。一流店でも、ランチにお呼びすれば予算を下げられるし、セカンドラインの所にお連れすると、敷居も予算もそこまで高くなりません。
――例えば企業間の重要な商談など、守秘義務を守らないといけない時に選ぶべき会食の場所はどのようなお店がありますか?
渡邉:もし「あの会社の社長とこの会社の社長が、あのお店で会っていた」と他人が見て分かってしまうくらい有名な人であれば、裏口があるお店や化粧室で他人とバッティングしない配慮をしてくれるお店である必要があります。政財界の人が使ってきたような老舗の料亭って、1部屋に1つ化粧室があったり、2部屋に1つだったとしても、女将がそこをわきまえて、「今お化粧室に他の方が入られたので、ちょっとお待ちください」と止めてくれたり、絶対によその人たちと顔を合わせさせないという配慮があります。
なので、顔をもし見られたくなければ、入口やエレベーターが別になっているお店から選ばないといけないと思います。ホテルのレストランだと、厨房の裏にある授業員用の貨物エレベーターを裏口にしていることもあります。そこから厨房を通って入る裏の隠し部屋のような個室で食事をさせてくれる所もあります。
あと、ホテルや高級店のスタッフは、どのタイミングなら部屋に入っていいか、よくわかっているのですが、接待慣れしているお店でないと、お店の人に話を聞かれてしまうことがあります。
――そういう意味では高級店は安心ですね。渡邉さんはミシュランガイドでお店を探すことが多いんですか?
渡邉:それがそうでもないんです。ミシュランガイドに掲載されている人気店は予約が取りづらいことが多いですし。ビジネス接待って、会話の方が大事で、何を食べたかはあまり覚えていないもの。ですから、味だけではなく過ごしやすさや、自分の融通が利いたり、勝手を知っているお店の方がいいですね。
――いちばん大事なのは味じゃないんですね。
渡邉:よっぽどこれを食べてもらいたいとか、向こうからリクエストがある場合、例えば中国から来た人から「今日は松阪牛を食べたい」と言われればそういうお店を選びます。でも普通の接待なら本当に流れ作業のように食べますから。
あと年配の方で食べ物に苦労した時代を通ってきた世代の方は、食事を残すことに抵抗があって無理をしてお召し上がりになることがあるので、どういうものがお好きで、どれくらいお召し上がりになる方なのかは可能であれば調べた方がいいです。場合によってはコースを少なめにして、足りなかったらアラカルトで追加することはできますので。
女性相手ならプリフィックスメニューのお店がお勧め
――お店選びで一番迷うのが、年上の女性との会食です。こちらが何かお礼をする時や、ちょっと仲良くなりたい時ですね。あまり背伸びをしすぎるのも生意気に見える気がするので、さじ加減が難しいと感じます。
渡邉:確かに相手が女性の方ですと気を遣いますよね。直接畳に座る和室だと、座った時にスカートがしわになったり、ミニスカートの方がいると極端に短くなっちゃったりするので、靴を脱がずに済む和室か椅子席を選ぶようにしています。特にブーツの季節はそうですね。あと、リブやカニなど食べにくいお料理を出す所は、会話の妨げになるので避けた方がいいかもしれません。
女性の役員や経営者の方に対して、十分に事前のヒアリングができなかった時によく使うのは、全てのお料理をプリフィックススタイルで選べるお店を選ぶことです。私がよく使うお店は前菜から最後まで、テーブルに運ばれて来たワゴンの中から食材と調理法をオーダーできるので、お好みやお腹の空き具合、体調、カロリー等に合わせて選んでいただけます。実際に見ていると、自分と選ぶものが違うってすごく分かるんです。
――健康志向の方が増えているので、それはいいですね! それで言うとお寿司も選択肢に入りますか?
渡邉:お寿司屋さんに行く時は二人までですね。あと、ゆっくりできる所ならいいかもしれませんが、有名店によっては40分から1時間半しかいられない所があるので、時間との勝負になってしまいます。置いた瞬間に「早く食べてください」と言われる所もあって、先方よりも自分が先に置かれた時は、先に食べるわけにもいかないので、とても困ることがあります。ですから、お寿司が好きな方にリクエストをいただいたのであれば、ゆっくりできるお寿司屋さんのカウンターを選ぶ。もしくは、お寿司を頂いた後、場所を変えてゆっくりお酒を飲む場で時間を費やすという感じです。あと、小さいお店だと壁に反響して声が店中に聞こえるので、そういう意味でもお寿司屋さんは大事な商談には向かないと思います。
知っていると差がつくパワーテーブルとは?
――渡邉さん程のキャリアをお持ちなら、接待店の選び方についても、教科書的ではない応用の仕方もご存じかと思います。いくつか教えていただけると嬉しいのですが…。
渡邉:そうですね、たとえばレストランに行った時、真剣な商談の場に使う席としてパワーテーブルというのがあります。一般には夜景が見える席が上席とされていますが、夜景がきれいに見えると、そちらに気を取られてしまいますよね。あと、壁側の席に座ると、お店の人の動きが見えすぎて気が散ってしまいます。
パワーテーブルは、ふだんは上席だと思われている席とは異なる場合があります。ビジネスの話に注力をしたいシチュエーションの時は、あえてお店に「大事な場なのでパワーテーブルでお願いします」と聞いてみましょう。大事な話はそこで集中して行い、一段落した時に「じゃあ眺めのいいところに移しますか」というセッティングができると完璧です。そういうことが分かっているお店に「パワーテーブルでお願いします」と言って予約をすると、一目を置かれるかもしれませんね。
――ビジネス会食は個室でするのが定石だと思いますが、あまり打ち解けていない間柄だと、場を持たせるのが大変そうです。
渡邉:機密性を保持する必要がある商談の時などは、完全個室でなければいけませんが、そこまでではない場合なら、個室にこだわる必要はないかもしれません。例えば2〜3人なら、目の前でお料理をさばいてくれる割烹カウンターの角の席を取ると、お互いに視線もずらせるので、気持ちがリラックスするし、会話が途切れた時も、カウンター内を見ながら会話を生むこともできますよね。あと周りにも人がいてご自身の話し声がかき消されるので、大事なことも実はある程度話せるというのもあるんです。秘書でも大事な会食イコール個室と考えがちですが、場合によってはカウンターというのも選択肢に入れるといいかもしれません。
ほんの少しの気配りで、よりビジネスが円滑に
渡邉:ところで最近は会食の招待状を出す方をほとんど見かけなくなりましたね。今の時代は物事がすごく合理的になっていて、それがいい反面、日本の古き良きものが失われつつある所があると思うんです。私が伝えていきたいなと思うは、ちょっとした気遣いが大きな出世につながったり、その後の人間関係が円滑になることで、自分の経営している会社の業績が伸びるということです。そして、そのポイントは、すごく些細で他愛もないところに潜んでいるものです。
これまで自分がついてきた大企業の役員の中で出世する人は、マメで気遣いができるという点が共通していました。例えば会食の招待状ひとつを取っても、大企業の会長・社長クラスの方だと2〜3カ月前から約束をして1カ月前までには招待状を出していました。その時にどのような招待状をおだしするかで、会社のカラーや秘書の力量が見えたりします。
より丁寧な招待状を出すなら、会食の会場の雰囲気に合わせた便箋や文字の書体を選んだり、後は地図ですね。お店のサイトにある地図だと分かりにくいものも多いんです。先方にドライバーさんや秘書がいない場合だと、どの場所に会場があるのかを確認する手間を、ゲストが掛けることになってしまいますよね。ホスト側がそういうシチュエーションを作ってはいけないなと。
なぜかと言えば、秘書というのはボスの1分1秒を無駄にしないことがミッションなんです。なぜなら、ボスの大事な1秒を作り出すことによって、何千万円が動く決断をしてもらう時間を作れることもできます。それは相手の方にとっても同じですので、相手のボスの時間を無駄にしてはいけない。わかりやすい地図をホスト側が用意してお送りするのも、そういう考えからなのですが、今は残念ながらそのカルチャーがなくなってきています。
もちろん押しつけがましくなるのはいけませんが、メールではなく手紙でご案内をすることで、相手のことを思っていることを伝えられますし、「ワインがお好きだと伺ったので、ワインがおいしいお店を選びました」と一言加えたことによって、普通の会食が先方にとっても楽しみな時間に変えることができると思います。会食や接待ひとつでも、そこに行ってその場ですべてが終わるのではなく、その前からストーリーを作り始める。セッティングするホスト側が、そういう気遣いをすることで、さらにビジネスが円滑になると思います。
渡邉華織さんプロフィール
株式会社ぐるなび 『こちら秘書室』担当室長
数々の有名企業で社長や会長の秘書を経験し、ぐるなびへ入社。 ぐるなび入社後は、3万5千人以上の秘書会員をもつ『こちら秘書室』の担当室長としてコミュニティーを担当。秘書のためのスキルアップセミナー、高級飲食店の下見・試食会などを企画し、現役の秘書達に必要な情報を提供している。 また、こちら秘書室公認「接待の手土産セレクション」ではプロジェクトの中核を担い、自らも約450個の手土産を試食し、味だけでなく包装紙や紙袋まで最近の手土産動向を把握する。
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