エレガンスとは、相手を思いやり唯一無二を選択すること:LVMHウォッチ・ジュエリージャパン株式会社 取締役 蒲谷直子氏 ✕ 幸田フミ FUMIKODA SALONレポート

外資系コンサルティング会社に勤められたあと、数々のハイブランドで日本代表のジェネラルマネージャーとしてご活躍されている蒲谷直子さん。
世界最大のアパレル系コングロマリット「LVMHウォッチ・ジュエリー ショーメ」日本支社の取締役として国内外を行き来し、忙しい日々を送られています。そのかたわら、母として、そして趣味人としての時間も決しておろそかにされてはいません。

そんな蒲谷直子さんに、ご自身のウェルビーイングと、ワークライフバランスの考え方についてFUMIKODA SALONでお話いただきました。聞き手はFUMIKODAクリエイティブディレクター幸田フミです。

女性の働きやすさを考えて外資系企業の世界に

幸田フミ(以下、幸田):今回は、LVMHウォッチ・ジュエリージャパン株式会社日本支社の取締役、蒲谷直子さんにお越しいただきました。

ずっとラグジュアリーブランドの代表を務めていらっしゃった直子さんと始めてお会いしたのは、10年以上前になるのでしょうか。LVMHジャパンが始めてブログを立ち上げられた際に、私がウェブマーケティングの仕事でアドバイザーとして入らせていただきました。当時の本社にご挨拶に伺った際に、初めて直子さんとお目にかかったと記憶しています。
それからなかなかお会いする機会がなかったのですが、ショーメ主催のイベントで数年ぶりに再会させていただきました。それから直子さんにFUMIKODAバッグをお使いいただいて、本当に光栄に思っております。

蒲谷直子(以下、蒲谷):最初にお目にかかった時、私はLVMHジャパンのデジタルマーケティングを担当していました。フミさんと出会った時のこともよく覚えております。いつもすてきなバッグをありがとうございます。

幸田 お会いした時にはLVMHにいらっしゃいましたけれど、以前もラグジュアリーブランドの会社に勤めていらっしゃったんですよね。

蒲谷 実は最初はラグジュアリーではなくて、外資系金融企業に勤めた後、外資系コンサルティング会社に転職しました。その後、あるラグジュアリーブランドが社内のプロジェクトマネージャーを募集していて、「コンサルタントとして、そのブランドに集中して仕事ができる」と思ったので転職を決めました。そこからはずっとラグジュアリーブランドで働いています。

幸田 直子さんご自身は元々、ラグジュアリーブランドの代表になりたいとか、こんな会社でこういったポジションに就きたいだとか、理想像を具体的に描きながらキャリアを築いてこられたのでしょうか?

蒲谷 大学を卒業した時は具体的に考えておらず、とにかく一生懸命働きたい。という思いだけはありました。当時は、女性が働くのであれば外資系の方がいいだろうと思ったのでそういった就職先を選んだのですが、最初の会社でアドバイザー的な業種を経験したときに、「あ、私はやっぱり女性らしい業界がいい」と実感したのです。
最初の頃は、今のようなポジションを目指したいとはあまり思っておらず、仕事はすごくしたかったけれど、ナンバーツーやスリーでいいと思っていました。ですが、チャンスが巡ってきて、やってみたら面白かった。そういう感じです。

ワークライフバランスも、常にニュートラル&ポジティブで

幸田 今の職場は女性が多いのでしょうか?

蒲谷 多いですね。比率でいうと女性の方がずっと多いです。私どもの会社には、いくつかブランドが入っていますが、ウォッチ、ジュエリーのブランドのジェネラルマネージャーは女性の方が多いです。
また、私のブランドの中にはマーケットが4つがあって、そのうち3人が女性で、私の上司も女性。ちなみに日本のジュエラーの社長もほとんどが女性に変わりました。

幸田 日本では大手化粧品メーカーでもようやく女性のロールモデルができたという状況ですが、ジュエリー業界は女性が活躍されているようですね。
直子さんは女性としてキャリアを築いていくのが難しいと感じることはなかったのでしょうか?


蒲谷 実は、ないのですよ(笑)職業柄、いままでの苦労話をしてくださいとよく依頼されるのですが、実は個人的に苦労を感じたことがなくて。やはり業界的に女性が働きやすいこともありますし、私自身も女性だからどうとかあまり気負わずにやってきました。逆に気が付かなかっただけなのかもしれないですね。

幸田 お仕事をとおして「女性だから」というハードルは感じなかったのですね。では私生活ではどうでしょう?何か大変なことはありましたか?

蒲谷 もちろん子育ての時は、時間のやりくりは大変といえば大変でしたが、家族のサポートがあったので助かりました。自分としては子育ても好きでしたし、仕事も一生懸命やりたかったし、どちらかを犠牲にしているという気持ちは全くなかったです。

幸田 仕事、プライベートの時間配分で何か意識されてきたことはあったのでしょうか?

蒲谷 時間配分は意識していなかったので、「息子よごめん!」という感じでした(笑)
私は本当に恵まれていて、両親が近くに住んでいて、母もすごく体力がある人なので夜中まで子供を見てくれていたりしました。私も夜中の12時くらいに実家に迎えにいって子供を抱えて帰る、といった感じでした。もちろん仕事に対して時間はすごく使ったと思いますし、大変なこともあったのですが、苦労とか嫌なことだとかはあまり経験しなかったですね。好きなことさせていただいたいたので。

幸田 すごい!ポジティブですね。

子育て中に出会った趣味と、ウェルビーイング

幸田 直子さんは子育てをとおして、今のご趣味である「剣道」に出会われたそうですね。その腕前はなんと、四段とのことです。剣道をやっている友人に「四段の女性がいる」と話したところ、「なかなか四段にはなれないよ!」とびっくりされたので、かなりの凄腕でいらっしゃるようです。剣道は何年くらい前から始められたのですか?

蒲谷 息子と一緒に始めて、もう14年になります。息子はもうやめてしまいましたけれども(笑)、私は週に4回ほど通っているでしょうか。火曜の朝7時~8時と、木曜日の夜と、あと土日の午前が稽古です。でも昔はもっとやっていて、週5日とか、1日2回とか通っていました(笑)

幸田 すごいですよね、1日2回。ジムでもなかなか通えないペースです(笑)
その時間を子育てとは別に捻出することに、ご苦労はなかったのでしょうか?

蒲谷 子育てをしていた頃は、週3回は必ずやっていましたが大丈夫でした。とにかく好きなことをしていたので、苦労と思わなかったです。一生懸命走ってきたらいまの歳になりました、という感じです。

幸田 今の直子さんにとって、剣道はどのような存在ですか?趣味以上なのではないかと感じます。

蒲谷 もう、「これがないと生きていけない!」という感じです。目標はまず怪我をしないように、一生続けていくことですね。

幸田 一生続けていきたいことがあるなんて、素晴らしいですね。ちなみにお仕事はいつまで続けたいと思っていらっしゃいますか?

蒲谷 そうですね、自分では90歳まで生きるつもりなので、いまの年金制度を考えると、日本に住む限り70歳かそれ以上は働かなければならないという気がしてます。

幸田 寿命が伸びて、想像していたよりも人生が長くなりそうなので、この先どこに住むのかはわからないですよね。直子さんは、剣道愛好家でいらっしゃったり、FUMIKODAのものづくりに共感してくださっていることなどから、相当日本好きでいらっしゃるという印象を抱いています。「神社巡り」もご趣味のひとつなのだとか。

蒲谷 コロナ禍はなかなか行けなかったのですが、2016年くらいから訪れた神社の記録を全部残しています。百ヶ所くらいは巡っていると思います。

幸田 日帰りで、それもおひとりで行かれるそうですね。

蒲谷 はい、日帰りで九州までとか行っちゃいます(笑)
やはり、神社は清々しいんですよね。特に山の上の神社は気持ちがいいので、浄化されるようです。自分を整えて、ポジティブになって帰ってくる感じですね。

幸田 直子さんといつもお会いしても何の淀みも感じないのは、おそらくそういったことを習慣にしていらっしゃるからですね。まさにウェルビーイングを実践されているように感じます。そして、いつもエレガントでいらっしゃいますが、立ち居振る舞いや人とのコミュニケーションで心がけていることはありますか?

「エレガンス」とは、相手を思って“それしかない”を選ぶこと

蒲谷 エレガントにしようと心がけている、というより、私は「エレガンス」というのは「人への敬意」だと思っています。語源を調べると「エリジール」といって、「選択する、選ぶ」という意味だそうで、「それしかない」というベストな選択をする、というふうに解釈できます。
「それしかない」って、素晴らしいですよね。素晴らしいものは、相手も驚く、相手も嬉しくなります。そういった「相手のためにベストな選択をする」というのがエレガンスであると、私は理解しているんです。
相手のためを思って何かを選ぶ。そして私はこの人に対して今どういった態度を取るべきだろうか?を考える。まさにそれがエレガンスだと思っています。

幸田 とても勉強になります。直子さんとご一緒している時、いつも分け隔てなく周りの方に気配りをされていて、誰に対しても敬意が感じられます。まさに、エレガントだなあと。


日本に対して美意識を感じることはありますか?長年外資系の企業に在籍されていた分、日本のことを俯瞰して見ていらっしゃるのではと思いますが。

蒲谷 メイドインジャパンのものには敬意を払いたくなります。それは日本というより、日本製の「品質に対する敬意」なのではないかと思います。
どんなにコストがかかっても、品質を大事にしていくということに対する敬意ですね。特にメイドインジャパンが、“イコール品質”となったのは、先祖代々日本人が作ってきた伝統に培われています。その結果としての評価なので、やはり先代の方々に対する敬意を表したいと思います。ただ、「メイドインジャパン」は大事だし、好きなのですが、「メイドインフランス」もやはり好きだなと。イタリーも好きだし。それぞれの独自の文化を伝統としてきちんと現代に引き継いでいるものはすべてに敬意を表したいと思います。でも日本が好きだから、やっぱりメイドインジャパンはナンバーワンですね(笑)

伝統を守るための“パトロン”という意識

幸田 確かに、ストーリーがしっかり見てとれて、こだわりの部分への理解が深まると敬意や愛着が生まれますよね。FUMIKODAがメイドインジャパンにこだわっている理由もそこにあって、自分の眼で見て品質やものづくりの背景に納得がいくことを大切にしています。
生産にご協力いただいている工房の職人の皆様も実直で、実際にネジ一本でも国内の工場で作ってもらっているんですけれど、精度が高く不良品がほとんどありません。私達もお客様に安心して製品をご提供できていて、最初からメイドインジャパンにこだわってきて良かったと思っています。

蒲谷 そう、品質は誇りですよね。だから私達消費者も支援しなければなりません。メイドインジャパンの品質を追求すると、どうしても他の国よりコストがかさんでしまう。それでも買う意味というのは、脈々と築かれてきた文化や芸術というものに対して、私たちは一消費者にすぎないけれど「パトロン」という意識を持たなくてはいけないと思うのです。
購入することによって自分も満足するし、伝統も引き継がれていく。次の時代に引き継いでいくために、買うということは大切な意味があると思っています。私も当社のお客様に対して、「お客様はすべてパトロンです」と話します。最初のお客様はナポレオンでした。その時代の貴族がパトロンだったと聞くとしっくりきますが、今はひとりひとりのお客様が私たちのパトロンです、と。そう思ってスタッフにも話しをしています。

幸田 FUMIKODAもそんな風に言えるように頑張ります!
たしかに、ヨーロッパなどには職人を守る制度がありますよね。でも日本では、たとえ職人が一生懸命働いても、景気のせいなどで仕事がなくなったら倒産するしかない状況で、実際そのような工房も目の当たりにしてきています。丁寧な仕事をずっと続けられてこられた職人たちの技術を次の世代に残すために、国が何らかの仕組みを構築してくれないかと切望しています。

蒲谷 国がどうにかする前に、フミさんが「FUMIKODA」を立ち上げて、メイドインジャパンび技術を沢山の人達に届けて、次の世代に伝えるという仕組みを築いてきたわけですから、すごいと思います。今日も買います!(笑)

 幸田 そうおっしゃっていただけると嬉しいです。私も先ほどの言葉で鼓舞されました。今日は素敵なお話しをありがとうございました。

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世界的に有名なラグジュアリーブランドの日本支社代表を務めていらっしゃる蒲谷直子さん。多忙を極められる中で常に笑顔を絶やさず、誰に対しても気遣いを忘れないたおやかな雰囲気がとても素敵でした。

特に「エレガンスは人への敬意である」という言葉には、サロンの参加者の中にも胸を突かれた多かったのではないでしょうか。果たして自分は、目の前にいる方に対して「ベストな選択」ができているのだろうか?と考えさせられました。

そして、メイドインジャパンであってもフランスであっても、培われた伝統が現代に引き継いできたものへのリスペクトをこれからも忘れたくないと思います。

お仕事に対してはもちろん、剣道へのまっすぐな情熱や、おひとりで出かけられる神社巡りなど、オンオフすべてにおいて、気負わずポジティブに向かわれる姿勢に、女性が自分らしく生きるヒントがあるように感じました。
蒲谷直子さん、素敵なお話をありがとうございました。

 

蒲谷直子(かばやなおこ)

LVMHウォッチ・ジュエリージャパン株式会社 取締役
CHAUMET ジェネラル・マネージャー
東京大学法学部卒業後、外資金融M&A部門アナリスト、外資系コンサルティング会社のコンサルタントを経て、カルティエ、ルイ・ヴィトン、デビアスにて企画、リテール、マーケティング、デジタル等の職務を担当。2014年より現職。
趣味は旅行と、子育て中に息子と始めた剣道(現在は四段)。