成年後見の専門家が伝える「親が70歳を超えたら話しておきたいこと」:司法書士村山澄江氏 ✕ 幸田フミ FUMIKODA SALONレポート

成年後見の専門家であり、数々の相続問題に直面してきた司法書士の村山澄江さん。
司法書士、認知症サポーター、経営心理士、承継寄付診断士として活動し、介護や相続における突然の問題を未然に防ぐことを使命とされています。

今回、村山さんをFUMIKODA SALONにお招きし、「親が70歳を超えたら話しておきたいこと」をテーマに対談を実施しました。聞き手はFUMIKODAのクリエイティブディレクター幸田フミです。


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幸田フミ(以下、幸田) 今回のFUMIKODA SALONには、成年後見の分野で数多くの相続問題を対応してこられた司法書士の村山澄江さんをお迎えしています。

村山澄江(以下、村山) 司法書士としてのキャリアを歩み始めてから21年が経ちました。専門は認知症サポーターをやりつつ、 2007年頃から認知症の方の代理人として財産管理を行う成年後見人※1の仕事をしています。

元々おばあちゃん子だったのが、この仕事に興味を持つきっかけになりました。キャリアをスタートさせた東京都台東区には高齢者が多く、無料相談を通じて高齢者の方々と接する中で、祖母との思い出が蘇り、高齢者支援の仕事を始めるきっかけとなりました。

日本の成年後見制度には、「法定後見」と「任意後見」という二つの制度が存在し、ご本人に現時点で「判断能力があるか」により適用する制度が異なります。制度について後ほど説明いたします。

成年後見人の仕事には大きなやりがいを感じていますが、やればやるほど万人向けの制度ではないと感じています。ただ、高齢になり一人暮らしで認知症の症状がある方々にとって、この制度は非常に重要です。将来的には、皆さんも成年後見人制度を利用することがあるかもしれません。
今回は、元気なうちに、費用をかけずに行える認知症への備えや家族で話し合っておきたいことについてお話しします。

※1 成年後見とは、「本人が認知症などで判断能力が不十分になってから」後見人が必要になったときに利用される制度

他人事ではない「認知症」

幸田 本日のテーマは「親が70歳を超えたら話しておきたいこと」です。
高齢の親を持つことは多くの方が直面する問題ですが、この問題について一人で考えても解決策が見えにくいことが多いですよね。
出来れば直視したくない、なかなかアクションを起こしづらいこの問題に対して今日はしっかり向き合いたいと思います。

早速ですが、よくある問題について教えていただけますか?

村山 最も一般的な課題の1つが認知症です。2025年問題とも呼ばれていますが、認知症になる人数が700万人に達すると推計されていますね。
認知症は特定の病名ではなく、日常生活に支障をきたす様々な症状の総称です。老化プロセスの一環として、誰もが認知症のリスクを持っています。もちろん、最後まで元気な人もいますが、亡くなる直前には認知症の症状を経験する可能性があり、そういった時期に備えておくことで、より安心安全に暮らせると思います。

幸田 認知症になる前に、備えておくべきことについて教えてください。

村山 まず大切なのは、介護でまとまったお金が必要になった時に資金をどう確保するかということです。家を売却するといった選択肢もありますが、これには契約手続きが必要です。また、銀行での取引についても、キャッシュカードを使ったATMでの出金は本人以外でも可能ですが、定期預金の解約などは本人による窓口での手続きが必要です。
親が判断能力を失った場合、こうした契約行為や金融取引を代行するためには後見人を付ける必要があります。

任意後見制度の理解と課題

幸田 成年後見制度は二種類あると伺いましたが、まずは「任意後見」について詳しく教えていただけますでしょうか?

村山 任意後見人制度は、日本で2000年の介護保険制度の導入に伴って開始された成年後見制度の1つです。
この制度の目的は、判断能力が十分なうちに、本人が自分の代理人(任意後見人)を指名し、将来的に判断能力が低下した場合に備えることです。成年後見制度の導入により、判断能力の低下した人々の権利と利益を守るための重要な手段が確立されました。

任意後見人制度は、本人が自ら未来の後見人を選べるという点で、文字通り「任意」です。つまり、本人が将来的に判断能力を失った際、自分が決めた代理人に様々な手続きを委ねる契約を結ぶことができます。特におひとりさまにとっては、入退院や緊急時のサポートを任意後見人に依頼したいというニーズが高いです。

これに対し、法定後見制度とは、2つある成年後見制度のうち、もう1つのほうです。法定後見制度を利用する方は、ご本人の判断能力がすでに低下しており、法律上の代理人(後見人)をつけないと契約などを行えない場合に、裁判所へ申し立てをすることで後見人が選任されて、財産管理がスタートする仕組みになっています。
注意が必要な点は、法定後見の場合は誰が後見人に選ばれるかが必ずしも明らかではないということです。任意後見と違い、法定後見の場合、裁判官は候補者が後見人としてふさわしいかどうかを決めるからです。

幸田 なるほど。後見人にはかなり広範な権限が与えられていると聞きますが、それによって起こる問題について教えていただけますか?

村山 実際、選任された後見人によっては、依頼人の日常生活における選択に厳格な制限を設けることがあります。例えば、依頼人にケーキやお寿司、旅行などを贅沢だとして本人の財産から支出しないといったケースです。

幸田 ケーキまで制限されることがあるのですか!?

村山 かなり極端な例ですが、あり得る話です。後見人が財産管理をする権限を持っているという事は生活スタイルまで影響が及ぶ可能性があるということなのです。
後見人の価値観によっては、本人の幸せと合致しない管理になる可能性もあります。これが、後見制度が万人に適していないと私が考える一因です。
さらに、資産家の方が法定後見人制度を利用する場合に特に注意していただきたいことは、生前贈与が制限される点です。後見人は本人の財産を守る責任があるため、生前贈与は本人の財産を減らす行為なので、裁判所が認めない可能性が高いです。
その結果、後見人が就任した後は、相続税対策はあまりできなくなります。

法定後見人制度を利用することで「思っていたのと違う」という後悔の声は確実にあります。
私のところにもそういった声が寄せられており、先月お手伝いした方も「後見人の弁護士と見解が相違して、苦労しています」とおっしゃっていました。外部の人間としては、これに対して具体的なアクションを取るのが難しいのが現状です。

幸田 法定後見人を変更することはできないのでしょうか?

村山 法定後見人は簡単には変えられないのです。横領などの刑事罰に値する行為があれば解任されますが、高圧的な態度や通帳を見せないなど、やり取りの困難さという理由では変更は難しいのが現状です。

幸田 それは腑に落ちない部分がありますね。やはり双方の信頼関係が大切ですよね。

村山 
家族にとっては大きな不安要素ですよね。他人に通帳や重要書類を全て委ねるわけですから。私は現在約40人以上(累計)の担当をしており、それぞれの大切な財産をお預かりしています。
大変ですが、大切なお客様の財産をしっかり管理するために細心の注意を払って対応しています。

私自身はできるだけ家族と協力して、信頼関係を築くスタイルを好むため、通常はよほどのことがない限り財産の管理状況をご家族に開示しています。ただ、法的に開示義務はないため、後見人によっては個人情報の保護を理由に開示を拒むこともあります。

親子で進めるいざという時の「備え」について

幸田 制度について多くを学びましたが、実際に自分の親とどのように話し合い、準備を進めれば良いのか、具体的なアプローチやタイミングについて教えていただけますか?

村山 親が70歳を迎える時が、1つのタイミングだと思います。この年齢になると様々なことが起こりうるので、私の場合も、親が70歳になるタイミングで家族会議を開き、介護が必要になった際の希望財産管理や実家を誰にあげたいのかについて話し合いました。
親の性格や状況によってアプローチを変える必要がありますが、親を年寄り扱いせず、リスペクトを前提とした会話が重要だと思っています。

幸田 そうですね。両親に余計なお世話と思われたり、不快な気持ちにさせたくないですよね…

村山 不快に思われるくらいなら話さない方が良いかもしれませんが、親のお金が引き出せないとならないために、お金のかからない準備は試して欲しいです。

幸田 どのような準備をしておくべきでしょうか?

村山 おすすめなのは、金融機関の代理人届です。全ての銀行が対応しているわけではありませんが、代理人として子どもを登録しておくと親が自分で引き出せなくなった場合に役立ちます。
代理人用のキャッシュカードも発行されるので、親が引き出せなくても子どもが代わりに窓口やATMでお金を引き出せます。

幸田 金融機関の代理人届けは知らなかったです。そんな仕組みがあるのですね。

村山 キャッシュカードの暗証番号を共有することも一つの方法ですが、親自身が暗証番号を複数回間違えてロックされたケースもあるので、代理人届がより便利です。他にも、通帳、クレジットカードの整理や、長年継続している定期預金、生命保険を見直すことで後々の家族の負担を減らしてくれます。

幸田 情報をまとめておくことは重要ですね。私も自分のことを整理しなくては…! 

村山 はい、重要なのは、主に利用している銀行や生命保険の内容を確認することです。全てを明らかにしてもらう必要はありませんが、基本的な情報は共有してもらっておくことが望ましいですね。
YouTubeでの情報収集もおすすめです。

幸田 動画だと分かりやすいですね!村山さんもチャンネルを開設されていますよね?

村山 はい、「ゆるっとかいご」というチャンネルです。法律に関する話から、認知症の専門家、特別養護老人ホームの施設長、ケアマネージャーなど、さまざまな分野の専門家が情報を提供しています。特に介護費用の節約に関する内容は人気があります。
役所では教えてくれないような、税金が返還されるケースなども紹介しています。

幸田 なるほど、そんな節約方法があるなんて知りませんでした。

村山 一番嬉しかったのは、家族信託についての動画を親子で見たことがきっかけで実際に相談に来られたご家族のケースです。
親御さんが「これはいいね、やってみよう」と言ってくださって、それが一緒に話し合う機会になりました。

幸田 それは素晴らしいですね。一緒に視聴することが、大切な話のきっかけにもなるのですね。

村山 まさにそうです。具体的なアプローチに困っている方は、この方法も試してみてください。

幸田 今日は大変勉強になりました。ありがとうございました。 

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今回の対談の中でご紹介できなかった「家族信託」や「法定後見制度」などについては、村山さん達が運営するYouTubeチャンネル「ゆるっとかいご」をご視聴ください。
さらに、遺言書について詳しく知りたい方は、村山さんがFUMIKODA JOURNALに寄稿された「相続トラブルを回避するための「遺言書」7つのポイン」を合わせてご覧ください。 

村山澄江(むらやますみえ)

司法書士、認知症サポーター、経営心理士、承継寄付診断士
介護や相続の『まさか』をなくすことがミッション。おばあちゃんこだったことがきっかけで、高齢者家族のサポートに注力。

1979年名古屋生まれ
2003年司法書士試験合格
2010年独立開業
2018年「AI相続®︎」(みなと相続コンシェル)の立ち上げに参画、2022年取締役に就任
2019年日経xwomanTerrace(日経BP社)アンバサダー1期就任
2020年株式会社エラン(東証プライム上場)「キクミミ」監修者に就任
2022年株式会社NTTデータ・スマートソーシング運営『HOME4Uオーナーズ』記事監修開始 
2023年経済産業省『OPEN CARE PROJECT』発足に参画
認知症対策の相談数1500件以上
家族信託・成年後見の専門家として活動中

司法書士 村山澄江事務所

書籍
「今日から成年後見人になりました」自由国民社
「認知症に備える」自由国民社
YouTubeチャンネル
介護する家族を応援する「ゆるっとかいご」2020年開始、登録者21,000名

FUMIKODAは「すべてのビジネスシーンでウェルビーイングを提供する」をミッションに掲げ、幅広い情報発信を通じて働く皆様を応援しています。

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