「幸福度を上げる第一歩は、相手に感謝し、信じること」慶應義塾大学大学院SDM研究所 前野マドカ:FUMIKODA WOMANインタビュー vol.09

「FUMIKODA WOMANインタビュー」では、さまざまな仕事の現場で活躍する女性たちの仕事への取り組み方から、生き方やライフスタイルまでをご紹介します。今回は、「幸福学」研究の第一人者であるご主人と研究を重ねる前野マドカさんにお話を伺いました。聞き手はFUMIKODAのクリエイティブディレクター・幸田フミです。

幸せになるためのメカニズムを検証する学問「幸福学」

幸田フミ(以下、幸田):お越しくださりありがとうございます。マドカさんとお話しするたびに、いつもポジティブで幸せな気持ちになれるんです。今日はその理由を探れたらと思っています。

前野マドカさん(以下、前野): お声がけいただけて光栄です。何からお話ししましょうか。

幸田:マドカさんはご主人が教授を務める慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科で研究をしていらっしゃいますね。そもそも「幸福学」とはどんなものなのでしょうか。

前野:「幸福学」とは、心理学と統計学をベースに、幸福・欲求・共感・感動を計測して幸せになるためのメカニズムを検証する学問。「幸福」というと、これまでは宗教学や哲学、心理学の一環として論じられてきましたが、そこから独立した新しい分野です。


幸田:ご主人は幸福学の第一人者としてご活躍ですが、どのような経緯で幸福学を研究するようになったのでしょうか。

前野:夫はもともとエンジニアだったんですよ。哲学や心理学とは対極にありそうな分野ですが、笑うロボット、心があるロボットをつくろうとするなかで、彼の関心は人間の心に向かっていきました。そのうち「生身の人間が笑っていないのはなぜだ。それなのにロボットを笑わせている場合ではない」と考えるようになり、研究の対象が脳科学に移行していったというわけです。

アメリカで経験した2度のターニングポイント

幸田:一方のマドカさんは、まったく別の入口から幸せについて考えるようになったそうですね。

前野:はい。もともと朝になると「今日はどんな1日になるんだろう」とワクワクしながら目を覚ますようなポジティブな子どもだったんです。それは親の影響が大きかったと思います。私の父は、日曜日には決まって「明日から会社だ、楽しみだなぁ」と言うような人でした。もちろん大変なこともあったそうなのですが、子どもや家族の前では前向きでありたいと心がけていたということをあとになって聞きました。

いま考えれば、幸福学を研究することになったターニングポイントは2つあったと思います。ひとつ目は、留学時代に味わったカルチャーショックです。国籍もバックグラウンドも違うさまざまな人々が集うアメリカでは考え方も人それぞれですが、お互いの意見を尊重しながら、どうすれば物事がスムーズに進むかをみんなで考えていく。自分はどうありたいかなんて考えたこともなかったので、大きな学びとなりました。

幸田:それは私にも経験があります。日本では仕事のことで意見しあうと険悪なムードを引きずることもありますが、アメリカでは熱く議論してもケロッとして一緒にランチに行ったりします。「意見は違って当たり前」という感じですね。

前野:その通りですね。もうひとつのターニングポイントは、結婚後、夫の駐在に伴ってアメリカで暮らしていたときのこと。子どもを遊ばせるために母親たちが公園に集まって、いつものように世間話をしていたのですが、ママ友に「マドカの将来の夢は何なの?」と聞かれ、「子どもたちを立派に育てること」と返事をしたら、「Sorry?」と何回も聞き直されるぐらいビックリされました(笑)。

彼女の言い分は、「それは母親としての役目であって、あなたの人生で掲げる夢ではない」。私はそれまで自分の人生について考えることもなく、夫がやりたい仕事に打ち込めて、子どもたちが健やかに成長できるように支えることが私の幸せだと思っていました。

でも、いま研究をする立場として言えるのは、人は利他的な活動によって誰かのために貢献することができ、さらに自分の成長を感じられたときのほうが幸せを感じやすい。これはデータでもわかっているんです。確かに円満な家庭で夫や子どものために尽くすのも“利他的”といえるかもしれませんが、対象が「誰か」から「世の中」に大きくなり、夢や目標が大きくなると、得られる幸せも比例して大きくなっていきます。

 

バランスよく満たされると幸福度が上がる「4つの因子」とは

幸田:前野ご夫妻が提唱しているのが「幸せの4つの因子」ですね。ご説明いただけますか?

前野:「幸福学」では、心の要因による幸せを「4つの因子」に整理し、これらをバランスよく満たすことで幸せを手に入れられると考えています。

<幸せの4つの因子>

第1因子:「やってみよう」因子(自己実現と成長)

夢や目標を持ち、たとえ叶わなくても努力したり成長したりして自己実現を目指す人のほうが幸福度が高い。

第2因子:「ありがとう」因子(つながりと感謝)

まわりの人との関わりや環境に感謝をし、人との信頼やつながりを築くことで幸福度が高くなる。

第3因子:「なんとかなる」因子(前向きと楽観)

どんなこともポジティブに捉えて取り組んだり、自分の嫌いなところも含めて自己受容できたりする人のほうが幸福度が高い。

第4因子:「ありのままに」因子(独立と自分らしさ)

他人と比較せず、マイペースにやっていける人は幸福度が高い。自分らしさを押し殺しすぎてしまうと、幸福度は低くなる。

前野:一見すると、それほど特別なことではないと思われるかもしれません。でも、忙しさなどの理由で心が狭くなってしまうと、自分を許すことや他者に感謝をすることができなくなったりしますよね。



そこで、まず始めてほしいのが第2因子です。この因子だけが「他者」という対象が必要です。はじめにこの因子を整えると他の3つもうまくいきやすいです。ぜひ日々の生活で感謝したことやうれしかったことを書き出してみてください。仕事で悩んでいる人は、上司や仲間の気遣いや取引先のひと言でうれしかったことなどを書いておきます。そうして感謝することを意識していると、小さなありがたみに気づくようになり、どんどん幸せを感じられるようになってきます。

幸田:ポジティブなことを書き出すのがポイントなのですね。実は、私はニューヨークへ留学したころ、勉強でつまずいて悩みや愚痴を毎日ノートに書きつづっていた時期がありました。でもあるとき「それではいけない」と気づき、感謝の気持ちを書くようにしたんです。そうしたら悩みも晴れて、勉強もうまくいくようになって……。

前野:フミさん、さすがです。イヤなところばかりを意識していると、イヤなことを見つけるのが上手になってしまいます。逆にいいところばかりを見るようになると、いいところを見つけることがどんどんうまくなります。私は人に会うときは、「この方には、どんな素敵なところがあるんだろう」とワクワクした気持ちで接しています。もう意図することもなく、センサーみたいに素敵なところが見つけられますよ(笑)。

幸田:それがマドカさんマジックなんですね。マドカさんと会うと幸せな気持ちになる理由がわかりました!

前野:たとえば、目の前に置かれた水を見て「素敵なグラスだな、作った方のセンスを感じるな。お水もおいしそうだし、コースターも素敵」。ね、いいところを見つけるのって意外と簡単でしょう?

そう考えるとFUMIKODAのバッグは簡単です。デザインが素敵で、軽くて丈夫。雨に濡れても拭けばいいし、企業の会議室からホテルのラウンジまで、どんなシーンでも持てる。本当に勇気をくれるバッグですよね。いいところを挙げたらキリがないです。

幸田:そう言っていただけて、本当に光栄です。どうすれば女性のストレスを少なくして元気づけられるだろうと思いを込めて作っているので、持つ方が「このバッグがあるから勝負プレゼンに行ける」「雨だけど、このバッグを持ってがんばって会社に行こう」と思ってくださったらうれしいです。

 

職場の人間関係や子育て、パートナーシップにも応用できる人との関わり方

幸田:FUMIKODAのお客様は、職場で上司や同僚、部下との関係を築き、ご自宅ではパートナーやお子さんと接しています。そんな関係のなかで、お互いが幸せでいるためにはどうしたらいいでしょうか。

前野:「ピグマリオン効果」をご存じですか? 子育てや人材育成にも用いられる教育心理学用語で、たとえば「この子は大器晩成する」と信じて育てると、結果が伴うというもの。職場でも同様に、上司が期待をかけて接した部下の成績は明らかに違ってくるといいます。

そこで、まずは「心配」を「信頼」に換えてみるのはどうでしょうか。アメリカのママ友に言われたのが、「日本人はまだ起こっていないことを心配して子育てしている」ということでした。転んでもないのに転ぶことを心配するのではなく、「あの子は大丈夫」と信頼してあげる。幼稚園で迷惑かけていないかを心配するなら、今日はどんなことをして楽しんでいるかなと信じてあげること。

それは仕事でも同じことで、相手を信頼しているとこちらの態度も言葉も変わりますし、それは必ず相手に伝わります。

幸田:仕事や子育てだけでなく、パートナーとの関係にも応用はできるのでしょうか。

前野:もちろんです。信頼することも大切ですし、第2因子の対象をパートナーに設定して感謝することを意識してみるもの素晴らしいと思います。自分を信じて相手を信じる。自分を許して相手を許す。自分を愛して相手を愛する。そうすることでお互いが成長し、またいいところを見つけてあげられる。そんないい関係を築けたら最高ですね。

私たちは夫婦で幸福学を実践していますが、何があっても絶対に揺るがない信頼関係を感じています。それは彼の行動からも言葉の端々からも。信頼と尊敬、お互いの成長と、ユーモア。やっぱり楽しさは重要ですね。夫婦長続きの秘訣を聞かれたら、私ならそう答えますね。

幸田:より良いパートナーシップの築き方がアカデミックに解明されるとおもしろいかもしれませんね。今回は「幸福学」の研究だけでなく、実践もしていらっしゃるマドカさんのお話を伺い、たくさんのことを学ばせていただきました。幸福度を上げるために、身近にある小さなありがたみに気づけるように、うれしかったこと、感謝したことを、さっそく今日から書き留めてみたいですね。

 

ご主人の慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授、
前野隆司氏との共著
「ニコイチ幸福学 〜研究者夫妻がきわめた最善のパートナーシップ学」(CCCメディアハウス)

 

前野マドカさんプロフィール

慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科附属SDM研究所 地域活性ラボ・ヒューマンラボ研究員。サンフランシスコ大学、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)などを経て現職。著書に『月曜日が楽しくなる幸せスイッチ』。EVOL株式会社代表取締役CEO。国際ポジティブ心理学協会会員でもある。著書に 『月曜日が楽しくなる幸せスイッチ』 (ヴォイス)があり、月曜日が待ち遠しくなる思考法を身につけるワークショップや、幸福学に基づいた経営のコンサルティング・研修などを行っている。また、ご主人で幸福学研究の第一人者である前野隆司氏との共著『ニコイチ幸福学 研究者夫妻がきわめた最善のパートナーシップ学』(CCCメディアハウス)もあり、幸せでいられるヒントを動画で紹介するチャンネル「はぴtube」を展開している。