モノを循環させる中で想いを巡らせ、使う喜びを知る―SDGsの理想の形とは 「リユースプロジェクト」発案者 TANAKAホールディングス 理事 原田和佳子さん : FUMIKODA WOMANインタビューvol.12
デザイン性と抜群の耐久力を併せ持ち、多くのキャリア女性に愛されるFUMIKODAのバッグ。その特性を新たな方向に昇華させるのが、2020年から実施されている「リユースプロジェクト」です。
まだ使えるバッグを、次代を担う学生に託す。そんな「リユースプロジェクト」始動のきっかけとなったのは、ブランド立ち上げ当時からのお客様でFUMIKODAの最大の理解者のお一人でもある原田和佳子さんの発案でした。
原田さんは、新卒で入った商社で日本初の女性貴金属ディーラーを務めて以来、外資系銀行や証券会社でキャリアを積み重ねてこられ、現在は日本の大手貴金属メーカーで理事を務めておられます。その明るく力強いお人柄は、FUMIKODA SALONでも多くのお客様を惹きつけています。
今回、原田さんはご自身が海外出張などに愛用されていたバッグ「BIANCA(ビアンカ)」を、北海道で自然環境やその保護事業を勉強していた学生のKさんにエールと共に寄贈され、Kさんからもまた、喜びのメッセージをいただきました。
原田さんがキャリアを重ねる中で培われた広い視野から示されるSDGsの未来について、FUMIKODAクリエイティブディレクター 幸田フミと共に、メッセージの感想を交えながら語っていただきました。
進行はFUMIKODA直営店 セールスアドバイザーの大木彬乃が務めます。
くるくる回すことが、いろいろな人を繋げていく
大木彬乃(以下、大木):最初に、リユースプロジェクト発案の経緯について伺っていこうと思います。原田さんと幸田さんとは、ブランド立ち上げの頃からのお付き合いだそうですね。
幸田フミ(以下、幸田):はい、FUMIKODAを立ち上げる前から、女性用のビジネスバッグを作りたいと相談させていただいていました。そしてバッグが出来上がり、青山のセレクトショップで初めてお披露目した時に真っ先にご覧いただきました。「出来上がった」とは言っても、自分の中では怖さというか、「これを本当にキャリア女性の方に見ていただいたら、どんなふうに評価されるんだろう」という不安でいっぱいでした。
原田和佳子(以下、原田):まだ当時はフミさんのパーソナリティをそこまで深く存じ上げていなかったのですが、作品の緻密さや一貫性は真っ先に印象に残りました。「こういうものを作りたい」という方向性と、アウトプットが一致しているんですよね。軽くてきれいで、丈夫で、機能性もあって。背景からものづくりまでのストーリーがしっかりしていました。だからこそ、私に限らず皆さんにすんなり受け入れられ、好きになったのではと思います。
幸田 皆さんが受け入れてくれて、可能性を初めて実感しました。
原田 生産現場との調整がうまくいかなくて、ギブアップすることっていっぱいありますよね。2次元で解決できるものと、3次元+時間+コスト=5次元くらいのものをアウトプットとして一つの形にするって本当に大変だと思います。職人さんが共感してくれないと理想のものはできないですし。沢山の方の協業で成り立っていることが、製造業に携わっているとよくわかります。
FUMIKODAがデビューした2016年に販売した「GINA」の限定色を今でも綺麗にお持ちいただいています
大木 それ以来、FUMIKODAのファンでいてくださって、リユースプロジェクトも発案していただきました。
原田 実は父親が現役時代にタイヤメーカーに勤めていて、長らくその姿を目にしてきました。製造業というと、特に昔は工場からの排気などでクラスメイトにからかわれることもあって、環境問題とも隣り合わせでしたから、ものづくりやその辺りに対する意識は、思えばこの頃に培われたのかもしれません。それに、バブルを経験して、大量消費社会に危機感も持っていました。
それからもう一つは、貴金属に携わる仕事に就いていたことも関係しています。
生産の過酷さや希少性から、金というのは6,000年のリサイクルの歴史があるんです。無駄にするものがない、丈夫、きれい、変質しない、加工しやすい。
だから一度ものになったら捨てるのではなく、どれだけくるくる回せるかというのが、私たちの業界の常識なのですが、それに対して、アパレルは最後はどうしてもゴミになってしまう傾向がありますよね。加工していろいろなものを付加すると、高価になり長く使えるかもしれないけれど、結局タンスの肥やしになったりして商品のライフは短くなっているように思われます。そのもどかしさもあって、せめてリサイクルだったりリユースだったりの発想を生かせないかと思うようになりました。
そういう中で出会ったFUMIKODA製品というのは、すごく「きれい」だったんです。他のハイブランドのバッグと比べても、使った後もきれいでした。
どこかに持ち込めば、素材に戻してリサイクル出来るのかな、とも考えたのですが、でもその前に使えると思ってフミさんにご相談したら、二つ返事で引き受けてくれました。
幸田 その思いは受け取らせていただいて、和佳子さんだけではないかも、と考えました。思えば自分も、買って使わないものというのがどうしてもありますし。それでユーザーの方々に声をかけてみたら、複数個譲っていただけることになりました。
大木 学生さんたちにもとても喜んでいただきました。
幸田 はい。もともとFUMIKODAのバッグが欲しかったという人もいらっしゃいましたが、やはり素敵な女性が持っていたという付加価値が大きいと思います。ゲン担ぎのように感じてくださったのではないでしょうか。
原田 皆、当たり前に地球環境のこと考えていますしね。そういう若い人たちがいてくれると、私たちにとっても、バッグやメッセージで繋がれるというのは凄く価値があるのではないかと思います。今、SNSなどでの繋がりの薄さがなんとなくわかってきているので、もう少し深いところを皆さん求めているのではないでしょうか。
幸田 ものづくりをする中でも、沢山の職人さんが関わってプロダクトができていることを実感していたので、簡単に捨ててしまうのは職人さんに申し訳ないと思っていました。だから「リユースプロジェクト」を提案していただいたのは本当にありがたかったです。職人さんにもお話を聞くと、「ああ、いいものつくってよかったな」と言ってもらえて、皆にとってWin-Winのプロジェクトですよね。
人、地域、物。多様なストーリーを理解することが私たちの責任
大木 原田様のキャリアの中では様々な機会の積み重ねがあったことと思いますが、特に原田様がSDGsに関心を持つきっかけとなった出来事やプロジェクトはあったのでしょうか?
原田 そうですね。ものづくりに関しては先程申し上げたようなバックグラウンドがあったわけですが、ダイバーシティ的な物の考え方については、新卒で入社した商社を辞めて英系企業に転職し、イギリスに渡った時に変わるきっかけを得ました。
30年ぐらい前になりますが、日本にいた頃は男性が表に出て、女性はサポート役といった考え方が当たり前に思っていたのですが、イギリスでは男性もバックオフィス業務に就いている方が一定数いるのに驚かされました。よく聞いてみると、家庭を大事にしたいという思いがあったり、趣味に時間を取りたかったり、要は仕事以上に大事にしたいことがあって、それとのバランスをうまく取れるのが、営業やトレーディングではなくて、日本では女性がメインの職場だと思われていたバックオフィスだったわけです。そこで生き生きと働いている姿を目の前にしました。
つまり一人ひとりが仕事をしながら幸せになる方法を模索できていたんですよね。男性だから、女性だからっていう考え方がなくて、すごく考え方がフラット。当時はダイバーシティなんて言葉はありませんでしたが、それが自然に成り立っている環境で働けたことは、その後の物事の考え方に大きく影響を与えたと思います。
その一方で、発展途上国の鉱山や貴金属の開発現場にも行きました。
沢山の労働者がいて現場は想像を絶するほど過酷ですが、そういう中でもやっぱり大事なのは、彼らが幸せになるためのバランスを考えることだと感じました。
彼らは命を張って仕事しているのですが、そういう仕事はお給料もいいですし、そうやって得た資源を先進国に買ってもらわないと自国の人たちの職がなくなってしまいます。環境も守り、人権も守るためには、簡単に開発をやめればいいというわけではなくて、例えばODAなどでお金だけばらまかれても、下手にすると麻薬とか糖尿病とかの病気ばかりが増える結果になり、健全な社会にならないことも多いんです。
やはり人間というのは、ちゃんと職を得て、技術と教育を得て、そして国が成り立っていくのだと思います。
そう考えると、私たちの責任というのは、世界がそういう構造の中に成り立っているんだ、ということをまずは理解して物を買って、使って、仕事をする必要がある。
ということをすごく現実として目の当たりにしましたね。
大木 なるほど。ものや人の背景を想像する必要があるということですね。
「責任」と言えば、FUMIKODAも企業としての責任を強く意識しています。
幸田 はい。FUMIKODAのコンセプトは「スマートコンフォート」です。責任をしっかり考えながら作られたものでないと、お使いいただく方が「コンフォート(快適さ)」を感じられないのではないかと思います。きっと、ものを作る側の責任は当たり前になってくるのではないでしょうか。リユースに関して言えば、もともと私たちのおばあちゃんの世代というのは、着物や日用品をリユースしたり、リサイクルしたりと、物を大切にする慣習を持っていたんですよね。そういう美意識というのは、物事の背景を想像することを積み重ねることで経験的に育まれて、それが気持ち良いと感じるようになったのではないでしょうか。
原田 責任というのは、いわば未来に対するコミットメントだと思うので、「気持ち良い」というのはとても大事ですね。そうじゃないと未来まで続いていかないですから。
「継続は力なり」っていうでしょう?継続って、社会の何かしらの責任に結びついていると思います。企業活動もそうだし、道の掃除や健康管理などの小さなことでも。責任とは、周りの人と幸せに生きていくためのきっかけというか、コミュニティの中でその人が継続的に幸せに生きていく理屈そのものですよね。
知りたいと思う心があるから、楽しく、フェアでいられる
幸田 ずっと知りたかったのですが和佳子さんはいつも明るくてバイタリティーがありますが、何か秘訣があるんですか?
原田 基本的に楽しまずにはいられないんですよね。楽しいと思う気持ちが活力。確かに、瞬間、瞬間では苦しいこともありますが、でも、そういった時でさえ、例えばジョークとか突っ込みどころとかに反応してしまいます。そうして乗り越えてしまうと、あとから振り返ってみても、人と比較してすごく苦しかったことというのが思いつかないんです。能天気なのかもしれないですね。歴史を勉強したり、気象衛星の天気図とか見たりすると、世界は皆つながっていて、明けない夜はないとも思いますし。
大木 物事を俯瞰して見られる、ということでしょうか。
幸田 同じものを見ても、和佳子さんはすごく変換力があると思います。何事も、どうとらえるかというのは自分次第ですから、それは強いだろうなと。ワカペディアと呼ばれるほどの知識力も関係していそうですね。
原田 どんなことでも知りたくて、面白がるタイプですね。英語が通じる人だったら、誰にでもなんでも聞いてしまいます。
それと少し脱線しますが、イギリスにいたとき、「フェア」という言葉をすごく大切にすることを学びました。「フェア」とは、日本語だと「公正」とか「正義」「正しさ」という意味ですが、欧米で安易に「フェアじゃない」って言うと、皆すごく怒ります。つまり正義とか公正さというのは、「自分の中の物差し」であって、皆が持っているべきものだから、軽々しく踏み込んではいけないんです。当時の上司に「たとえどこに行っても、「自分の正義」、「あなたの正義」が見えてさえいれば、失礼なことにはならない。」ということを教えてもらいました。
例えば、イギリスの階級社会、アメリカの「人種のサラダボール」、スペインの北部と南部と東部は、皆それぞれバックグラウンドの異なる人を抱えていて、それぞれの人の中の正義があります。「Be fair(フェアであれ)」というのは、そういうことをある程度、勉強して、聞いて、学んでおく必要があるのではないでしょうか。
そうすると俯瞰的なものの見方というか、「ああ、そういうバックグラウンドの人は、そういう考え方になるんだ」と、なんとなく皆つながっていって、相手のロジックが意外と理解できたりするんです。
幸田 起点はそこなんですね。「人を理解したい」という。確かに、Aさんの正義、Bさんの正義というのは、優劣じゃないですよね。そして、理解することは迎合することではないというのもすごくわかります。人種とか、宗教とか、理解して尊重し合う。まさにダイバーシティですね。
原田 実はSDGsについても同じように言えると思います。SDGsは、エッセンスとしては素晴らしいものですが、それをどうやって、地域や人それぞれのルールの下に落とし込んでいくのかが、これから重要になると思います。
というのもSDGsというのは、コストがかかります。FUMIKODAのバッグも例外ではありませんが、職人の技術を伝承するために、私はそのトレードオフの関係に満足しているわけです。しかし、どこでもだれに対してもそれが成立するわけではなく、世界には100か所あれば100通りのストーリーがありますから、SDGsをどう運営するかについては、皆が良く勉強して理解していかないと、かえって自己満足的な、間違ったものになってしまう恐れさえあるでしょう。
幸田 今、だんだんSDGsの入り口が開けてきているので、今回の学生のKさんのような人たちが、どんどん掘り下げていってくれるのは凄く頼もしいなと思います。30年、40年先にはきっと、そんな想いの先に育まれた新しい技術やシステムができているでしょうね。
共感、想像力、そして幸福な社会へ
幸田 今や日本においても多様化が進む中で、FUMIKODAとしても何ができるか、何をすべきかを常に考えながらものづくりを続けていく必要性を感じています。幸いなことに、和佳子さんを始め、弊社の取り組みに共感して一緒に取り組んでくださる人たちに恵まれています。私たちのアクションに賛同してくださる人たちがいることに支えられているとつくづく実感しているところです。
原田 逆に私たちから見れば、フミさんのロジックは誰が聞いても頷けるものなので、皆関わりたいのだと思います。それに、FUMIKODAはこちらからのリクエストや思いに共感するだけでなく、必ず応えてくれるという安心感があります。そのリアクションまであるからこそ、「このブランドを使うんだ」と思えるんです。
幸田 共感は⼤事ですよね。お客様がFUMIKODAの取り組みに共感してくださっているので私たちのエネルギーになりますし、喜んでいただけたら、そのお客様の気持ちに応えていける存在であろうと思いますし。そのためには、和佳子さんの仰ったような「知ろうとする意欲」だったり、想像力だったり、サプライチェーンに思いを巡らす姿勢だったりが大切なように思います。
原田 本当にそうですね。正直なことを言ってしまえば、バブルの時代はモノを大切にするなんて思ったことがほとんどありませんでした。ただ、様々な企業で経験を積む中で、各々に関わっている人、資源、環境の存在に気づかされましたし、それでこそモノを大切に思えるようになりました。つまり知ることが、まずはものすごく大切ですし、それが思いやる優しさに繋がるように感じています。人間には煩悩がありますから、時には無駄なものも買ってしまうんですけれど(苦笑)。
FUMIKODA SALONにもよくお越しいただいている原田さんとリラックスした雰囲気の中、お話させていただきました
FUMIKODAに興味を持つ人たちは、もちろん色々な方がいらっしゃいますが、コアな部分が共通しているように思います。世界がこれだけ多様なことを考えると、「マス」というのはほぼあり得ないと思いますが、ニッチの中で価値観やフェアネスを共有してもらえる人と幸せになりつつ、オープンマインドに「こんな良いものがあるんだ」というのが広がったら嬉しいですね。FUMIKODAへの共感が広がるみたいに!
幸田 ありがとうございます。今日は和佳子さんのお話を伺いながら、FUMIKODAがいかに皆様に育てていただいたブランドかということを実感し、これからもそうでありたいと思いました。リユースプロジェクトに関して言えば、これを継続することで、社会全体に「ものを大切にすること」への共感が広がっていけばと考えています。これからもブランドを通して出逢った人たちや、自分の中に育まれた思いを大切にしながら、少しずつアクションを起こしていきたいですね。
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インタビュー後記
最後に原田さんは、自分にとってFUMIKODAバッグがどのような存在なのかということをお聞かせくださいました。
「バッグを媒体として、フミさんをはじめとしたチームFUMIKODAのエネルギーを受け取っているんじゃないかな」と仰る原田さん。
その言葉を嬉しくお聞きしながらも、ものの背景にあるストーリーへの想像力をうかがい知ることができました。
幅広い知識が深い理解と共感を生み、それは大きなエネルギーとなり、自分へと還ってくる。
それは、私たちがよりよく生きるためのヒントとなるものに違いありません。
素敵なお客様との出会いにしつつ、この正の循環を受け取り、増幅させていくのもまた、FUMIKODAの役割なのだと思いました。
原田和佳子(はらだわかこ)
新卒で入社した総合商社で日本初の女性貴金属ディーラーとして貴金属業務に従事。その後、英系銀行本店に転職しロンドンへ。
帰国後は米系、スイス系証券会社、複数の総合商社で債券営業、コモディティー取引に従事。2011年に田中貴金属工業へ。スイス貴金属精練会社買収プロジェクトに参加し、統合チームとしてスイス・ニューシャテルに駐在。帰国後は田中貴金属グループのホールディング会社でリテール関連事業の業務監査などを担当。