6000年の歴史を誇るオリーブオイル。健康への効果と美味しい1本の選び方

いつの間にか日本の食卓でも定番の食材となった「オリーブオイル」。身体にもよいと度々メディアにも取り上げられていますが、私たち日本人にはまだまだ馴染みが薄く、オリーブオイルの素晴らしさを堪能しきれていないかもしれません。

本場イタリアでオリーブオイル鑑定士の資格を取得され、講演や執筆をとおしてオリーブオイルの魅力を紹介されている奥田佳奈子さんに、健康のために知っておきたいオリーブオイルの効能や種類、オリーブオイルのおいしい味わい方などを教えていただきました。

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こんにちは、オリーブオイルガイドの奥田佳奈子です。

地中海沿岸を旅すると、ゆるやかな丘陵をどこまでもおおうオリーブの連なりに心がひかれます。ちょうど10月の半ばくらいからオリーブは収穫の季節を迎え、人々は手に手に熊手やかごを持ってオリーブの畑に出かけていきます。収穫した果実はすぐに搾油工場に運ばれ、機械を回ししばらくするとオイルになります。新しいオイルができたことが伝わると、スイスやドイツからも買い物客が次々にやってきます。

オリーブオイルは遠い昔から家族の健康を守る大切な食材でした。今回はそんなオリーブオイルを皆さまにより楽しんでいただけるよう、オリーブオイルの魅力をお話したいと思います。

食用油にオリーブオイルをおすすめする理由

まず最初に、わたしたち日本人の最近の食生活の傾向について言われていることがあるので、それを考えてみましょう。

今「リノール酸」の過剰が懸念されているのをご存じですか?人間はたいていの脂肪酸を体内でつくることができますが、「リノール酸」と「リノレン酸」だけは食物から摂らなければならない必須脂肪酸です。

「リノール酸」はほとんどの種子油の主成分で、コレステロールの値を下げ、体内のさまざまな機能を働かせるために必要な栄養素です。しかし必須脂肪酸とはいうものの、過剰に摂取すると炎症やアレルギー、ウツ症状を引き起こし、発がんプロモーターになるとさえいわれています。

オリーブオイル FUMIKODA フミコダ

では、「リノール酸」過剰の傾向は何から生じるのでしょうか。それは外食が多く、コンビニのお弁当に頼り、加工食品を頻繁に食べるわたしたちの食生活。お菓子に含まれるマーガリンやショートニング、揚げたスナック、コーヒーミルクやアイスクリームなどにも、種子油やその加工品が多く使われ、気づかぬうちにリノール酸を摂取しています。

もう一方の必須脂肪酸である「リノレン酸」は、アマニ油やエゴマ油の主成分です。リノール酸の暴走を抑えることができる脂肪酸で、リノレン酸とリノール酸の望ましい摂取量の割合は1:1から1:4とされます。しかし、いまやリノール酸はリノレン酸の10倍にもなり、バランスがまったく崩れてしまっています。それならばリノレン酸の摂取をもっと増やせば良さそうですが、実はリノレン酸は料理には不向き。酸化しやすく加熱できません。冷蔵庫に入れても2週間が賞味期限です。

このバランスを整えるためには、家庭の食用油にリノール酸の多い種子油を使うのを控えること。家庭ではバターと、果実から搾られたフルーツオイルのオリーブオイルがおすすめです。バターは摂りすぎるとコレステロールが心配ですが、オリーブオイルにはその心配もなく、加熱にも強く、主成分は酸化にしにくい「オレイン酸」です。

ちなみに脂肪酸を摂取する理想的なバランスは次のとおりです。

<span style="font-weight: 400;">飽和脂肪酸 : </span>一価不飽和脂肪酸(オレイン酸):多価不飽和脂肪酸(リノール酸やリノレン酸)<br />= 3 : 4 : 3

つまり、バターやチーズや牛・豚・鶏などに含まれる脂肪を3 オリーブオイルを4、ゴマ油や大豆油、アマニ油などの種子油と魚油の成分EPA、DHAなど全部合わせて3の割合です。

わたしたちの食生活は一見ゆたかですが、便利になりすぎて加工食品が増え、不自然なバランスになっているといえます。仕事で忙しく最近元気が出ないと思っていたら、実は「リノール酸」の過剰摂取でウツ気味などということも起こりえます。オリーブオイルで脂肪酸のバランスを取り、健康な心と体で過ごしていただきたいと思います。

オリーブオイルは世界最古のオイルです

オリーブオイルは果実から搾られたフルーツオイルで、なんと、6000年前の栽培記録が残っている人間が最初に手にいれた世界最古のオイルです。

原産地は地中海の東沿岸あたり。キプロス島のトルコ側の対岸には、今も野生のオリーブの群生があります。オリーブ栽培の技術は西へ西へと伝わり、最初は教会の灯火や薬用油として使用され、ローマ帝国でオリーブオイルの生産量が増えると庶民もやっと食用として使えるようになりました。

女優のソフィア・ローレンが「よいオリーブオイルがあれば、薬はいらない」と、毎朝オリーブオイルを大匙2杯摂っているのは有名な話です。
100歳を超えて現役でいらした医師、聖路加病院の日野原重明先生も、心臓疾患や動脈硬化を防ぐためとおっしゃって毎朝オリーブオイルをジュースに入れて飲んでいらっしゃいました。

購入前に知っておきたいオリーブオイルの等級

オリーブオイルは、フルーツオイル。搾る果実の状態で品質が大きく変わります。

ローマ時代にすでに等級があり、青い実を搾ったオイルが「最上級」、次に色づきはじめたばかりの果実が「上級」、次に完熟果実が「並」、いちばん「下級」は地面に落ちた実を搾ったもので、これは奴隷用でした。
現在は、国際オリーブ協会(IOC)が次のようにオリーブオイルの等級を決めています。

そのうち日本で購入できるのは表の青色部分のオイル、「エクストラバージンオリーブオイル」、「ピュアオリーブオイル」、そして「オリーブポマースオイル」です。

バージンオリーブオイルは、砕く・搾る・ろ過するという機械的、物理的加工だけが認められています。生産国では「エクストラ」以外の等級も流通していますが、日本で流通できるのは酸度1.0%以下と決まっているため、それらは輸入できません。日本は種子油を想定して法律が整えられ、精製をかけて酸度を低くすることが前提となっているからです。

オリーブオイル FUMIKODA フミコダ

オリーブからつくる油であっても、品質の低いバージンオイルや、搾りかすから溶剤抽出したクルードオイルは、種子油のように精製をかけて使います。無味無臭になってしまうので、食用にする場合はバージンオイルを少し足してオリーブオイルらしい風味を戻します。日本では、これをあっさりした風味などと説明することが多いです。どんな加工をするにせよ、オリーブオイルの脂肪酸の構造や性質を変化させてはいけないと決められています。

オリーブオイルの効能とおいしい食べ方

オリーブオイルは主成分のオレイン酸が心臓疾患や動脈硬化のリスクを下げ、悪玉コレストロールを有意に減らすといわれています。これは、バージンオイルでも精製オイルでも同じです。

さらにバージンオイルには、精製をかけていないためにフルーツの恵みが壊れることなく含まれています。強力な抗酸化成分のビタミンE、たんぱく質を活性化させ骨粗しょう症を予防するビタミンK、体調を整えるカロテンや葉緑素、ポリフェノールなど、さまざまな成分がわたしたちを元気にしてくれます。

最近注目されているのは辛味成分のオレオカンタールで、脳の神経細胞の変質を防ぐ作用があり、アルツハイマーのリスクを軽くするといわれます。

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とはいえ、オリーブオイルはあくまで食品。毎日の食事の中でおいしくいただくことが大切。わたしはよく新鮮なオリーブオイルを「緑の調味料」と呼んでいます。その味わいこそオリーブオイルの楽しみです。

アイスクリームやフレッシュチーズにかけたり、クスクスサラダや、あたたかなスープにかけたりすると、上質なオリーブオイルならではの、青々しい草や果実のような香気がふわっと立ち上がり、一瞬で気持ちがすがすがしくなります。

上等のバージンオイルを手に入れたら、その風味を堪能したいもの。香りの成分が飛ばないように非加熱で使うのがおすすめです。もちろんオリーブオイルは加熱にも強いので、180度を越えなければ、つまりほとんどの調理の設定温度であれば酸化をそれほど気にせずに使うことができます。

国際コンクール目白押しで、どんどん進化するオリーブオイル

手近なスーパーでは主に、精製したピュアオリーブオイルと、エクストラバージンオイルの2種類が販売されていると思います。わたしたちは業務用に大量に使うわけではないので、少し高価でもエクストラバージンオイルがおすすめ。

そしてみなさんに、実はいちばんおすすめしたいのは、時には香り高い極上のオリーブオイルを試してみること。オリーブオイルのたのしみが一挙に広がります。

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オリーブオイルはこの10年で栽培技術も搾油技術も進化して品質が素晴らしく向上しました。砕いて搾る昔ながらの製法はしっかり守られていますが、ていねいに温度管理され、空気を完全に遮断した搾油、保管用のタンクは窒素充填されており、オイルが劣化しないための工夫がいくつも取り入れられています。

それに呼応するかのように、ニューヨーク、ロサンゼルス、パリ、ロンドンなど、世界各地でオリーブオイルの国際コンクールがさかんに開催され、デリケート部門、ストロング部門などの部門別、あるいは品種別、国別に品質が競われています。

国内でも、日本オリーブオイルソムリエ協会の「Olive Japan」や、イタリア大使館の「Japan Olieve Oil Prize」などの国際コンクールが開催されています。コンクールの結果はそれぞれのウェブサイトで発表されており、受賞オイルはオンラインなどでも購入できるので、ふだんなかなか手に入らないオイルを探すことができます。

極上のエクストラバージンオイルの探し方

コンクールで受賞したオイルは、たいていボトルにコンクールのロゴマークをつけています。いくつものコンクールにノミネートして受賞し、たくさんのマークがついていることも。受賞オイルばかりでなく、上質なオイルには原産地呼称の認定マークや、有機認証、あるいは品種、生産年、賞味期限、生産者名、などがラベルにきちんと書いてあります。

受賞オイルはスーパーや百貨店でも購入できますが、オンラインで検索して取り寄せてもよいでしょう。そういったオイルは、マスブロダクツのオイルに比べるとたしかに高価ではありますが、1本あれば1、2か月は毎日楽しめる手の届くぜいたくです。

250ccで3,000円程度、500ccで4,000円程度でトップランクのオリーブオイルを手に入れられるなら、それほど高価でもありませんね。

もしオリーブオイルの国際コンクールに興味があれば、「International Olive Oil Competition」と検索してみてください。また、国際コンクールの評価を統合して、どのオリーブオイルがワールド・ベストなのかを検証するNPO組織「World's Best Olive Oil」もあります。

今年のワールド・ベストは「Rincon de la Subbetica」というオーガニックオイルで、わたしも今年4月に見学したばかりのアンダルシアのオリーブオイル生産者組合の製品です。「Rincon de la Subbetica」はアマゾンで購入することができますので、もしよろしければ試してみてください。マニアックな生産者のこだわりを、ぜひ、感じてみてください。

いかがでしたでしょうか?

記事を読んでくださった皆さまが、おいしいオリーブオイルと巡り会えますように。そしてこれからもっとオリーブオイルを楽しんでいただけますように。

奥田佳奈子(オクダカナコ)

長年にわたり記者・編集者として、ヨーロッパの食とその背景にある文化を取材し、新聞・雑誌に多くのエッセーや連載を発表。また大手通販会社の役員として販売促進および顧客サービスに従事。

2003年O.N.A.O.O(ナショナルオリーブオイル鑑定士協会)よりオリーブオイル鑑定士(イタリア)資格取得、2016年ASSAMオリーブオイル鑑定士フィジカル適性能力証明取得。2018年AISOイタリア政府公認オリーブオイルソムリエ資格取得。イタリアのトリノ司厨士協会より「ペレット・ドーロ(金の帽子賞)」授与。

2001年「オリーブオイルの全てがわかる本」を出版、ロングセラーとなり、2016年台湾でも翻訳出版。2017年に改訂版「新オリーブオイルのすべてがわかる本」を出版、自身のセミナーを主催。正しいオリーブオイルの知識の普及に努めている。株式会社グランレガロ代表。