サスティナブルファッションを実現するステラ・マッカートニーの取り組み
現在レザーは靴、バッグ、小物、アウターウェア、家具などあらゆるところで使われています。耐久性、保温性、デザインの柔軟性など、さまざまな特長を持つレザーは、人類が衣服を身に着けるようになった時代に最初に使われた素材のひとつであると考えられています。
ただ現在、地球環境への意識が高まり、菜食主義を貫く人も増えている中で、動物性の素材を使うファッションに抵抗を感じる人も出てきています。たとえば元ビートルズのポール・マッカートニーの次女ステラ・マッカートニーによるブランド「ステラ・マッカートニー」は、ブランド立ち上げ当初からレザーやファーをまったく使っていません。この理由について、彼女は自身の言葉で次のように説明しています。
"私はベジタリアンとして、イギリスの田舎の有機農場で育ちました。だから私にとってそれは、とても自然なことなのです。でもレザーやファーを使わないという決断の理由は、単に自分が動物を食べないからとか、ファッションのために毎年数百万もの動物が殺されるべきではないからではありません。それは、ファーやレザーと環境の間のつながりを考えているからなのです。そこには強い結びつきがあります。多くの人が、レザーは食肉産業の副産物だから使ってもいいと主張しています。でも畜産は、地球温暖化や土壌劣化、大気・水質汚染、生物多様性の損失といった重大な環境問題の大きな原因のひとつなのです。また数々の皮なめし工場が、米国環境保護庁が緊急に環境浄化を要する工業用地を指定した「スーパーファンド」リストの中で主要な環境汚染源とされています。"
そのためステラ・マッカートニーでは、レザーの代わりにポリエステルやポリウレタンを原料とした合成素材を使っていて、可能な限りリサイクル素材も活用していますす。合成皮革というと「安っぽい」「ダサい」イメージがありますが、ステラ・マッカートニーではデザイン性も妥協していません。ブランドの信条に合う素材をどん欲に開発し、見た目からも手触りからも高級感の感じられるアイテムを作り続けています。
環境損益にもとづき再生カシミアを採用
ステラ・マッカートニーは、製造から流通過程で環境に与える負荷を可視化する環境損益(EP&L)を2013年から導入しています。2013年から2015年にかけて出された環境損益によれば、最も環境負荷が大きいのは原材料の調達だということが明らかになりました。
特にカシミアはステラ・マッカートニーで使用されている原材料の0.13%であるにもかかわらず、算出された総環境負荷の25%を占めていました。草原の草を根こそぎ食べてしまうカシミアヤギの習性により、カシミアの生産が環境に与えるインパクトはウールの100倍と言われています。
その課題に対応した取り組みが、これまで生産工程で廃棄されてきた素材を使った再生カシミア「Re.Verso™」の採用です。2016年以降はバージンカシミアは一切使わず、カシミア製品は100%再生カシミアで製造しています。
商品を製造する素材や製造工程における環境負荷を下げるだけではなく、環境浄化のための活動にも積極的です。InStyleによれば、最近では海洋環境保護活動を行うNPO「Parley for Oceans」とパートナーシップを組み、海から回収されたペットボトルを原料とする素材を服やバッグに利用し始めています。
ファッション業界全体に浸透するエシカルな思想
世界的に環境問題への関心が高まるなか、ステラ・マッカートニーの思想に近い動きも増えています。たとえばハイファッション商品の通販サイト、Net-a-Porterは、今後ファーを使った商品を取り扱わない方針を発表しました。動物愛護団体のThe Humane Societyによれば、すでにカルバン・クラインやラルフ・ローレンといった約300ものブランドでもファーを使わないことを宣言しています。
とはいえ、使われるアイテムの多さやデザインの多様性という意味では、ファーとレザーでは比べものになりません。前出のBusiness of Fashionの中で、ステラ・マッカートニー自身も「レザーを使わない」ことが、デザイン上の大きな制約になっていることを認めています。またレザーより薄く強度の低い合成素材は加工が難しく、専門性の高い工場での手作業が必要になることも多いため、天然素材よりコストが高くなることもあるそうです。
それでも、今後も継続して技術が開発されることで、よりレザーに近い素材、さらにはレザーより優れた特長を持つ素材が生まれていくことでしょう。そうすれば、より多くの人が倫理観にも美意識にも妥協することなく、ファッションを楽しめるようになっていくはずです。
Source: The Business of Fashion: BoF, InStyle, New York Times, The Humane Society, Stella McCartney