相続トラブルを回避するための「遺言書」7つのポイント

忙しい毎日を過ごしながら、どこかで気になっている親のこと。いつかくる「その日」を意識していながらも、なかなか現実的な話をしそびれてしまい、自分たちが譲り受けるものをつい親まかせにしてしまっている方も少なくないのではないでしょうか。

しかし相続について曖昧にしていたせいで、親族間の関係に亀裂がはいってしまったり、思わぬ時間とコストがかかったりするケースも少なくないそうです。

先日開催したFUMIKODA SALONに、相続対策がご専門の司法書士 村山澄江さんをお招きして、働く女性が知っておきたいスマートな遺言書の書き方についてお話しをうかがいました。

イベント終了後、参加者から「親と話し合うときの参考になった」、「自分自身が遺すものについて考えるきっかけになった」との感想を多数いただいたので、ご講演の内容を村山さんにわかりやすくまとめていただきました。

遺産相続のこと、そして遺言書のことが気になっていらっしゃる方は、是非村山さんの記事を参考にしてみてください。

うちにも必要?
「遺言書」を用意しておくべきケース

こんにちは、司法書士の村山澄江です。

相続対策は資産家など、特定の家庭だけがするものと思っていらっしゃいませんか?
実は、「財産は実家のみで、預貯金はたいしてないから揉めようがない」というご家庭こそ要注意です。なぜなら、不動産を平等にわけるのは簡単ではないからです。

次のどれかひとつでも当てはまる方は、ぜひ遺言書の作成をご検討ください。遺言書がないと実現できなかったり、相続人同士の話し合い(遺産分割)が非常に困難になる可能性があります。

  • 子供がいない
  • お世話になった方(相続人以外)へ財産を残したい
  • 疎遠になっている相続人へ財産を渡したくない
  • 相続人同士で争わないようにしてほしい
  • 離婚や再婚をしている(前の婚姻で子供がいる)
  • 病弱または障害を持った家族がいる


例えば、お子さまがいらっしゃらないご夫婦のどちらかが亡くなった場合、父母がすでに他界していればその兄弟が相続人に該当し、兄弟が他界していればその子供が相続人に該当します。
つまり、甥姪同士で話し合いになることになり、関係が疎遠になってしまっていたりするとなかなか遺産相続が進まないというケースが多くみられます。また、兄弟のひとりが認知症だった場合、遺産分割協議書に署名ができず、相続手続きが止まってしまうケースも考えられます。

「遺言書」は自分で作成できるの?

遺言書には自分だけで作成する「自筆証書遺言」と、公証役場で保管される「公正証書遺言」の2種類があります。 それぞれの特徴やメリット、デメリットは次の表のとおりです。

①自筆証書遺言 ②公正証書遺言
作成方法 自分で遺言の前文・氏名・日付を自書し、押印する
(財産目録は自筆でなくてもよい)
本人と証人2名で公証役場へ行き、本人が遺言内容を口述し、それを公証人が記述する
証人(立ち会う人) 不要 必要
保管方法 遺言者が保管 公証役場で保管
裁判所での検認 必要 不要
メリット ・費用がかからない
・遺言内容を秘密にできる
・法的に有効な遺言が作成できる
・紛失の恐れが低い
デメリット ・無効になる恐れ
・遺言書が本物かどうか証明できない
・紛失・盗難の恐れ
・費用がかかる


自筆証書遺言は気楽に作成できる一方で、形式に不備があり無効になってしまう可能性も否めません。心配な方はまず下書きとして自筆証書遺言を書いてみて、内容が十分に固まってから公正証書遺言を作成するという方法も選択肢のひとつです。

まずは自分で、と遺言書の作成に挑戦されたい方は、こちらのフォーマットを参考にしてみてください。Wordのドキュメントをダウンロードしてお使いいただくことも可能です。

遺言書サンプル FUMIKODA
遺言書サンプル
※内容を保証するものではありません。

Wordドキュメントをダウンロード

遺言書を作成する時のポイント

いざ、「遺言書を作成しよう!」と思い立ったら、次のポイントに注意してください。後々トラブルにならないために、事前に抑えておきたい7つのポイントをご紹介します。

遺言書 相続 FUMIKODA

ポイント① 判断能力があるうちに作成しよう

認知症や脳の病気を患ってしまうと、原則として遺言書を作成することができません。しかし、判断能力さえあれば寝たきりの状態でも作成は可能です。公正証書遺言を作成する際は公証人が家や病院まで出張してくれるので、その場合は司法書士に相談しましょう。

ポイント② 遺言書を作成したことを最低一人には伝えよう

自筆証書遺言であれ公正証書遺言であれ、作成した事実を誰も知ることがなければ発見されないこと可能性もあります。せっかく書いた遺言書を無駄にしないためにも、信頼できる誰かに知らせておきましょう。

ポイント③ 遺言執行者を決めておこう

「遺言執行者」とは、遺言の内容を実行する人です。弁護士や司法書士等の専門家に頼んでもいいですし、相続人の誰かを指定しておいても良いでしょう。遺言執行者がいないと、相続人全員の印鑑を集めるところからスタートしなければならなく、時間がかかる可能性が高くなりますが、遺言執行者を決めておけば相続の手続きがとてもスムーズになります。

ポイント④ 遺留分について知っておこう

「遺留分」とは、法律上最低限度保証される相続分です。例えば、「すべての財産を長男へ相続させる」とし、妻とその他の子供には一切財産を残さない内容の遺言書を書いて死亡した場合、妻とその他の子供は、長男に対して遺留分を主張することができ、最低限度の相続分を確保することができるということです。

話し合いで終わらなければ調停や裁判で主張します。ただし、自分が最低限の相続分をもらえなかったことを知ってから1年または相続開始から10年以内に主張しなければ時効が成立し、それ以降は主張できなくなります。よって、遺留分を侵害しない(各相続人に最低限度の相続分を確保してあげる)遺言書にすることを勧める専門家が多いです。
※覚え方:兄弟姉妹が相続人になる場合は遺留分なし

相続人に該当する人 遺留分
(全体)
遺留分(個別)
配偶者 子供
配偶者のみ 2分の1 2分の1 - -
配偶者と子供 2分の1 4分の1 4分の1 -
子供のみ 2分の1 - 2分の1 -
配偶者と親 2分の1 3分の1 - 6分の1
親のみ 3分の1 - - 3分の1
配偶者と兄弟姉妹 2分の1 2分の1 - -
兄弟姉妹のみ - - - -


誰が相続人に該当するかは、下記の順番で確認します。
※第一順位がいなければ第二順位、第二順位がいなければ第三順位となります。

相続の順位 法定相続人
第一順位 配偶者+直系卑属(子・孫)
第二順位 配偶者+直系尊属(父母・祖父母)
第三順位 配偶者+兄弟姉妹

ポイント⑤ 相続税がかかる場合は、税理士に相談しながら作成しよう

相続税がかかりそうな場合は、二次相続(お父様が亡くなった後のお母様の相続など)にも配慮する必要があります。基礎控除(税金がかからない額=3,000万円×(600万円×相続人の数))や、小規模宅地の特例(亡くなった方と同居していた方等が土地を相続する場合は評価額が80%減額される)などを検討しながら作成するほうがよいでしょう。

ポイント⑥ 付言事項で家族への手紙を書こう

「付言事項」とは、最後に書き足す手紙のようなものです。財産の渡し方だけが書かれた遺言書よりも、「生前何度もお見舞いに来てくれた長女には、感謝の気持ちを込めてほかの相続人より多く残したいと思い・・・」など、どんな思いでこの遺言書を書くのかを遺すことで、相続人たちの納得度がかなり違ってきます。

ポイント⑦ すべての財産について記載しておこう

一部の財産についてのみ遺言書を作成することも可能ですが、記載されていない財産がある場合はどうするのか、かえって相続人同士でもめてしまうこともあります。 もし特定することが難しければ、「すべての財産を〇〇と〇〇へ2分の1ずつの割合で相続させる」でも構いません。漏れがないようにすることで、トラブルになるリスクを減らすことができます。


いかがでしたでしょうか?

遺言書がないために相続についてもめるケースは少なくなく、皆さん相当ストレスを感じられているようです。「相続はいつか必ず起こること」と肝に銘じて、一度家族会議をしてみてください。

村山澄江

村山 澄江
Sumie Murayama


終活に強い司法書士、公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート会員、簡裁訴訟代理関係業務認定会員、シニアライフマネージャー1級。
1979年名古屋生まれ。早稲田大学卒業。23歳時に司法書士試験合格。下町の台東区で開業したため、高齢者との関りが必然と増え、相続や成年後見案件を多く扱う。現在は千代田区にて司法書士事務所の代表。家族信託と成年後見の専門家として全国でセミナー等行っている。
著書「今日から成年後見人になりました」(自由国民社)は2013年に発刊後増刷を重ね、現在第8刷。働く大人女性向けWebマガジン「Ane会」編集長。2019年2月に創刊される、日経BP社のクロスウーマンプロジェクトのアンバサダー就任中。

司法書士 村山澄江事務所