CREATIVE DESIREとブランディングワークショップ(前刀禎明氏 × 浅野恭弘氏)第6回 FUMIBLUE SALONレポート

2026年8月24日(月)、第6回目となるファンクラブ主催のサロン、「FUMIBLUE SALON」がFUMIKODAで開催されました。
 
この日お迎えしたのは、元アップル米国本社副社長 兼 日本法人代表取締役で、現在はディアワンダー株式会社を率いていらっしゃる前刀禎明(さきとう・よしあき)さん。そして、ニッカウヰスキーのリブランディングを手がけたブランディング専門家、株式会社アグリエール代表取締役の浅野恭弘(あさの・のりひろ)さんのお二人です。 


FUMIKODAのファンクラブ「FUMIBLUE」が主催のサロンですが、企画してくださったのは、ロータスライフ株式会社代表取締役の中村僚子さん。中村さんのご縁があってこそ実現した、豪華な顔合わせとなりました。
 
「問いを立てる力」「思い込みを外し、新たな視点で見る力」「アイデアと、より良い意思決定を生み出す力」。この3つを通じて目指すのは、自分自身をアップデートし続けること。
AIが答えを出してくれる時代だからこそ問われる「人間側の力」について、ディスカッションも盛り上がりました。当日の様子をレポートします。

スティーブ・ジョブズに導かれた日々

前半にお話しくださったのは前刀さん。ソニー、ベイン・アンド・カンパニー、ウォルト・ディズニー、AOLなどを経てアップルに入社されたという、経歴だけで一冊の本が書けそうなキャリアを、笑いを交えながら軽やかに話してくださいました。

しかし、当時のアップルは日本市場で危機的な状態だったそうです。そんな中で実現した本社でのスティーブ・ジョブズとの面接や、前刀さんの指揮でiPod miniを大ヒットさせ、アップルを復活させた話を、終始明るい表情で語ってくださったのが印象的でした。

 そこから話はジョブズ氏の「シンプルにする」という哲学へ。
 
「シンプルにするというのは、物事を単純化することじゃないんです。究極のゴールを明確にして、何をすべきか、何をすべきでないかを見極めるということなんです」
 
この考え方のもと、乱立していた製品ラインナップをすべて切り捨てて生まれた究極の1台が初代iMac。そこからアップルの復活が始まったのだそうです。

AI時代に問われる「人間の役割」

話題は現代のAI活用へ移ります。前刀さんいわく、AIが生成する説得力のないコンテンツは「AIスロップ」と呼ぶそうで、その氾濫にはかなり手厳しいコメントも。
大切なのはどのAIを使うかではなく、料理人がいろんな食材で最高の料理をつくるようにAIを使いこなして最高の価値を創造する「人間側の力」なのだと。


IQ・EQに加えて、これからはCQ(好奇心と創造性)とAIQ(AIを使いこなす力)が要る時代。AIが即座に正解を出してくれるからこそ、自分なりに問いを立てる力と、周りに流されずに考える力が大事なんだそうです。日本の教育に根強い「唯一の正解」を求める姿勢への指摘には、会場のあちこちで小さくうなずく人の姿が見られました。

DEARWONDER+という、問いを育てる道具

この日いちばん「へえ!」という声が漏れたのが、前刀さんが開発されたAI探求アプリDEARWONDER+」のお話でした。使い方は意外とシンプルで、目の前の草花や、ふと目に留まった日常の一場面を撮影してAIに投げかけると、返ってくるのは「答え」ではなく、もっと深く考えさせられる「問い」なのだそうです。


根っこにあるのは「セルフイノベーション」と「ワンダーラーニング」という考え方。自分の中にある可能性を解き放って、満足せずにワクワクしながら学び自分を超え続けていくこと。そこから育つ好奇心と創造力が、「CREATIVE DESIRE(クリエイティブデザイア=創造的な欲求)」というかたちで結晶していく。それがAIとともに未来を創る原動力になる、というお話でした。


すでに小学校から大学、企業研修、保護者向け講座まで幅広く導入されていて、「1人で考えるより深く考えられた」「新しいアイデアを発見できた」という声が多いのだとか。
AIアプリの話をしているはずなのに、聞こえてくるのはとても人間くさい、生き方そのものの話だったのが印象的でした。

ブランドは、心の中に生まれる

前刀さんの熱をそのままに、後半はブランディング専門家の浅野恭弘さんへバトンタッチ。ヨーロッパのシニアマーケッターを対象にした調査でも、2025年、2026年と2年続けて「ブランディング」が優先課題の第1位に挙がっているのだそうです。
AIによって模倣と均質化が進むほど、ブランドの淘汰は加速する。だからこそ今、ブランディングの意味を問い直す必要があると浅野さんはおっしゃっていました。

「ブランドとは、お客さんの頭の中に作られる、選ぶ理由なんです」

シンプルながら、核心を突く言葉でした。作り手側がどうしたいかではなく、お客さん側がどう感じるか。その視点の転換こそがブランディングの本質なのだと。

実践の手法として紹介いただいたのが、顧客の潜在意識と商品の特徴を掛け合わせてコンセプトを導く「クロスピラミッド」というフレームワークです。

クロスピラミッドが導いた、ブラックニッカの物語

具体例としてお話しくださったのが、ニッカウヰスキーの看板商品「ブラックニッカ」のリブランディングです。

ウイスキー初心者が抱きがちな「匂いが独特で飲みづらい」という不安に対して、ピートを使わないという商品特徴を掛け合わせ、「癖がなく飲みやすいウイスキー」というコンセプトを導き出したのだそうです。
中身はそのままに、ラベルの黒い面積を減らして爽やかな印象へパッケージを変えただけで、売上が動き始めたというから驚きです。


そこからさらに、ルパン三世とのコラボレーションや謎解き要素、いろいろな飲み方の提案へと物語を広げ、容量ベースの売上で1位を獲得するまでに育てられたそうで、このくだりでは会場からも小さなどよめきが漏れました。

「東京都在住の女性」ではなく「R.Nさん(実名)」というふうに、ターゲットを曖昧な属性ではなく身近な一人の人間として具体的に思い描くこと。その人の行動から満足・不満・未充足を想像してアイデアにつなげていく考え方は、前刀さんのDEARWONDER+」の話ともどこか重なって聞こえました。

☆☆☆

問いを持つ力と、相手の視点でブランドを見つめ直す力。お二人が話してくださったテーマは違うようでいて、根っこはきっと同じところにあったように思います。
「昨日の自分より今日の自分、そして明日の自分」、「明日の自分には無限の可能性がある」。飲みながら、笑いながら、時々みんな静かになりながら耳を傾ける、そんな空気に満ちた夜でした。
答えをもらってすっきりした、というより、持ち帰る「問い」を抱えたまま帰路についた方が多かったのではないかと思います。
 
前刀禎明さん、浅野恭弘さん、FUMIBLUEの理事である及川美紀さん、原田和佳子さん、そしてこの日サロンにご参加いただいた皆さま、ありがとうございました。次回もどうぞお楽しみに。

ゲスト登壇者のプロフィール

前刀 禎明(さきとう・よしあき)

ディアワンダー株式会社 代表取締役CEO&CWO
ソニー、ベイン・アンド・カンパニー、ウォルト・ディズニー、AOLなどを経て、アップル米国本社副社長 兼 日本法人代表取締役に就任。スティーブ・ジョブズ氏に託された日本市場で、危機的であったAppleを復活させた。2007年にリアルディアを設立して企業変革を支援。2023年には新たな挑戦としてディアワンダーを設立。未来創造力を磨くAI探求アプリ「DEARWONDER+」を開発し、AI時代における人の進化をリードしている。明星学苑のAI教育エグゼクティブアドバイザーも務める。著書は『学び続ける知性 ワンダーラーニングでいこう』など。

浅野 恭弘(あさの・のりひろ)

「ブランディング×デザイン」で企業の価値創造を支援するブランドコンサルタント兼デザイナー。
 株式会社アグリエール代表取締役。日本ブランド経営学会会員。日本消費者行動研究学会会員。大学卒業後、ブランディング会社にて商品開発・マーケティング・ブランディングに携わり、ニッカウヰスキーのブランド戦略を担当し、売上数十倍の飛躍的な成長に貢献。2021年、食・農業分野のブランド開発や事業開発を行うコンサルティング会社を創業。現在は、独自のブランディングメソッド「クロスピラミッド」を駆使し、企業や自治体の事業開発や課題解決に伴走し、100社以上の企業の売上向上を実現している。著書に『ブランディング1年目の教科書 売れる価値のつくり方』。