【対談】地球上に「ゴミ」はない。100%リサイクル可能な社会はもう目の前に|日本環境設計株式会社 岩元美智彦会長
地球上からゴミがなくなるーーー
環境汚染が深刻化する中、革新的なリサイクル技術を開発し、世界中の大企業から熱い視線が注がれている日本環境設計株式会社の岩元美智彦会長。多くの人を巻き込んで循環型社会を本気で構築するためには、ドキドキ・ワクワクするようなクリエイティビティが大切だと語ります。
そんな岩元さんとFUMIKODAのクリエイティブディレクター幸田フミは、「エシカルとファッション」をテーマに百貨店でトークショーを開催する予定でしたが、コロナ禍でやむなくイベントが中止に。かわりに中目黒と秘密基地(!)を中継して、視聴者からの質問に答える形でオンライン対談を開催しました。
すべての「ゴミ」をエネルギーに
日本でリサイクル法が制定されたのは2002年。自治体などがペットボトルを回収して再利用する取り組みをはじめましたが、集めた資源を再生できるのはたった1度きりです。しかもできあがった素材は決して良質とは言えなかったため、土木資材など目に見えない場所でしか使われていませんでした。
当時商社マンとして環境事業に取り組まれていた岩元さんでしたが、せっかくペットボトルを回収して再生してもやがて燃やされてゴミになり、結局CO2を排出してしまうことが残念でなりませんでした。
循環型社会を実現するには、地球上の資源が何度も使われてこそ。再生した素材を半永久的にリサイクルする技術を開発するために、2007年に日本環境設計株式会社を設立しました。
世界中の人たちを巻き込むための
「ドキドキ・ワクワク」
リサイクルは地球環境を守るために、ひとりひとりが心がけたい大切なアクションです。けれども真面目にリサイクルの方法論を語るだけでは循環型社会を実現することができません。
「多くの人に賛同してもらうには、いかにドキドキ・ワクワク楽しんでらえるかにかかっている」と岩元さんは考えます。
その象徴的な試みだった、デロリアンプロジェクトについてお話をうかがいました。
1985年に上演された映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」で、マイケル・J・フォックスが演じる主人公が2015年の未来にタイムトリップして、ミッションを果たしたあと元の時代に戻ってくる。その時のタイムマシンはゴミを燃料に稼働する車型の「デロリアン」でした。
主人公がタイムトリップした「未来」と同じ2015年10月26日に、映画で使われたデロリアンを東京・お台場でバイオエタノールを燃料に走行させたのが岩元さんです。燃料はもちろん回収した古着を原料とした再生燃料でした。
ドキドキ・ワクワクのこの企画、最初は映画を知らない若い社員がなかなか共感してくれなかったり、ハリウッドに直接著作権の交渉を試みることになったり、イベント当日の朝にデロリアンが動かなかったり… なかなか思い通りにはいかなかったようです。
しかしたくさんの苦難を乗り越えて実現したイベントには、BBC、CNNなど世界中のメディア約80社が取材に訪れ、Yahoo!でもトップニュースになりました。
「リサイクルを理解している人は少なく、ペットボトルの回収が義務化されてもなかなか循環型社会は実現できなかった。大多数の興味のない人達にアクションを起こしてもらうためには、"正しい"を"楽しい"にしなければならない。どんなに大切なことも、ドキドキ・ワクワクしないと伝播しません。」
ちなみにデロリアンは秘密基地に駐車してあり、たまに運転していらっしゃるそうです。
地上にある資源だけを使った
オリンピックメダルを
オリンピックは「平和の祭典」なのに、紛争の原因となっている地下資源を使用したメダルをもらって、選手たちは本当に喜ぶのだろうか?
東京オリンピックの開催が決定してから、岩元さんはNTTドコモと共にオリンピック委員会にそんな疑問を投げかけました。
石油はもとより、金銀などの鉱物は争奪戦が繰り広げられ、多くの人の生活が脅かされています。そういった地下資源は使用せず、廃棄された旧い携帯電話から取り出した金属、いわゆる地上資源だけを使ってオリンピックメダルを作ってはどうか?という画期的な提案をされたのだそうです。
その提案は見事承認され、「都市鉱山からつくる!みんなのメダルプロジェクト」が動き出しました。
選手の首にかかるメダル5,000個を制作するために、日本全国から携帯電話621万台を回収。端末を解体して金属を取り出し、北九州にある日本環境設計の工場で金、銀、銅のオリンピックメダルを制作したのです。
東京のあとにはパリ、LAでのオリンピックが控えていますが、きっとこの先「地上資源だけを使用したオリンピックメダル」は平和の象徴となり、レガシーになっていくだろうと岩元さんは話します。
そして、メダルだけではありません。オリンピック日本代表選手の公式ユニフォームにも岩元さんが生み出したリサイクル技術が使われています。
東京オリンピックは残念ながら延期になってしまいましたが、日本の素晴らしいリサイクル技術を世界中の人々に知ってもらえる機会にもなりそうです。
ポリエステルは悪者じゃない
ペットボトルや衣服の繊維として広く使われている「ポリエステル」は、近年「石油由来の地球に還らない素材」ということで目の敵にされつつあります。
しかしポリエステルはとてもリサイクルに適した素材で、日本環境設計の技術を用いれば100%、何度でも再生させることができるのだとか。
日本環境設計株式会社のウェブサイトより
「ポリエステルは10回、100回、1000回と繰り返しリサイクルすることが可能で、ゴミとして燃やさないかぎり資源として有効利用し続けられる。私たちはプラスチックを一切使わずに生活するのは難しい。プラスチックに代わる紙の需要が伸びているが、木を伐採することによりCO2削減を遠ざけてしまう。必ずしも脱プラスチックが良いわけではなくバランスが大切で、一番良くないのはプラスチックを使い捨てにしてしまうこと。」
この「10回、100回、1000回と繰り返し」できる魔法のようなリサイクル。岩元さんが生み出した「ケミカルリサイクル」という技術を使って実現が可能になりました。
簡単にケミカルリサイクルを説明すると、これまでのようにプラスチックを溶かして成形するだけでなく、製品を分子レベルにまで細かく分解し、不純物を取り除いたあと分子を再構成することによって高品質な再生素材を何度でも作ることができる画期的な技術です。
こうなるとペットボトルも古着ももはや「ゴミ」ではなく、すべてが「資源」です。
「人間の目から見るとゴミ、けれども技術や地球の目からみると資源。こっそり燃えるゴミとして捨てるのが一番良くない。要らなくなったものは回収ボックスへ、という文化が広がれば地球上からゴミはなくなり、地下資源に頼ることのない循環型社会が実現します。」
世界中のゴミ箱がすべて「リサイクルボックス」に成り代われば、地球の環境問題だけでなく地下資源をめぐる紛争も解決するかもしれませんね。
FUMIKODA✕日本環境設計の
リサイクルプロジェクト
「とってつけたようなおもしろみのない商品だとリサイクルは普及しない。再生素材を使用して、デザイナーには素敵な、魅力的な商品を開発してほしい。循環型社会のキーワードはここにある。」
技術開発が進み、リサイクルが自然と生活に溶け込むような仕組みづくりにも取り組んでいる中、人の心を惹きつける商品づくりが重要だと岩元さんは語ります。
たしかに、「リサイクル素材100%で作られているから」という理由だけでは消費者の心をつかめません。
再生素材を使用して、なおかつデザイン性と機能性を兼ね備えたプロダクトであってこそ人々が手にとるようになり、循環型社会が成り立ちます。
日本環境設計とのコラボレーションで製作中のリサイクル資材を使用したポーチサンプル
FUMIKODAも日本環境設計の協力で、リサイクル素材を使用したものづくりをはじめています。
今ある素材の中でベストな商品を作っていく。そして人や地球環境にやさしく、ドキドキ・ワクワクするような製品を届けつつ、地球上にゴミはないことを伝えていきたいと思っています。
岩元 美智彦氏 プロフィール
日本環境設計株式会社 取締役会長。
1964年鹿児島県生まれ。北九州市立大学卒業後、繊維商社に就職。営業マンとして勤務していた1995年、容器包装リサイクル法の制定を機に繊維リサイクルに深く携わる。2007年1月、現代表取締役社長の髙尾正樹とともに日本環境設計を設立。資源が循環する社会づくりを目指し、リサイクルの技術開発だけではなく、メーカーや小売店など多業種の企業とともにリサイクルの統一化に取り組む。2015年アショカフェローに選出。著書『「捨てない未来」はこのビジネスから生まれる』(ダイヤモンド社)。