大人の女性のための俳句講座|第1回FUMIKODA句会レポート

近年女性たちの間で人気が高まっている「俳句」。日本ならではの座の文学ですが、小学校の国語の授業以来、俳句にふれたことがないという方も多いのではないでしょうか。

「俳句に興味はあるけれど、なかなか学ぶ機会がない。」というキャリア女性のために、FUMIKODAショールームに俳人の星野高士先生をお招きして、第1回目の「FUMIKODA句会」を開催しました。

本流の師に学ぶ「俳句」

今回のFUMIKODA句会に講師にお招きした星野高士先生は、「花鳥諷詠」を提唱した俳人高浜虚子の曾孫にあたる方。虚子の娘、星野立子さんに十代の頃から師事されていました。

FUMIKODA句会 星野高士先生

鎌倉虚子立子記念館の館長を務められながら、NHKの俳句番組などでも活躍中の星野高士先生は、いくつかの句会(数人が集まり俳句を詠み合う会)を主宰されています。その中のひとつが品川で月に1度開催されている「雨月会」で、FUMIKODAのクリエイティブディレクター幸田フミが2004年から参加している句会です。

俳句を詠むときにおさえておきたいポイント

俳句は季語をひとつだけ使い、5、7、5の17文字で詠む短い詩です。
ルールはたったそれだけですが、ただ17文字の文章をつくるだけではなく、その句を読んだ受け手が頭の中で情景を思い浮かべ、心が動かされるような句が「名句」と評されます。

洗練された俳句を詠みたいときに、おさえておきたいポイントは次のとおりです。



  1. 情景を詠む
    花鳥諷詠を提唱する俳句は、詠み手の視点から見えている風景を言葉で描きます。心情を詠むと川柳っぽくなってしまいがちです。

  2. 季語を主役にする
    俳句の主役はその季節の季語です。どんな季節の季語を入れ替えても成り立ってしまうような俳句は味気なさを感じます。

  3. 当たり前のことは詠まない
    たとえば「桜がきれいで花見が楽しい」といった誰もが感じるような句は面白みがないので、自分独自の視点とオリジナリティが重要です。

  4. 季重なりを避ける
    季語が2つ以上入っている句を「季重なり」といいます。たとえ素晴らしい表現でも、季重なりの句はファウルになってしまうので、うっかり他の季語が入っていないか気をつけます。

  5. 字余りはできるだけ避ける
    5、7、5で詠むところを5、8、5などにして17文字を超えてしまうことを「字余り」と言います。俳句としてNGではありませんが、できるだけ俳句の正しいルールに則ってつくりましょう。

500年前から続いている「句会」とは

句会は数人が集まり、それぞれの俳句を発表したあとに評価し合う会で、松尾芭蕉の時代(17世紀頃)からずっと同じルールで楽しまれてきたそうです。今回のFUMIKODA句会は俳句を詠むのがはじめての参加者が多かったのですが、せっかくなので基本的な句会のルールに沿って開催しました。

FUMIKODA句会 星野高士先生

初心者には、句会当日までに決められた「兼題(けんだい)」で俳句を詠んでおくことをおすすめします。兼題とは句会の前にあらかじめ出される題で、その季節の季語が選ばれます。

この度11月に開催したFUMIKODA句会の兼題は

「冬めく」
「紅葉」
「酉の市」

の3つでした。

このいずれかの季語を使った句をそれぞれ3句ずつ携え、11名の参加者がペン1本だけを持参して集まってくださいました。いよいよFUMIKODA句会の開催です。

句会のベーシックなながれ

句会のながれを簡単に説明すると次のとおりです。参加者が10名程度の場合、句会の所要時間は2時間ぐらいです。

1.投句(とうく)
配布された短冊状の投句用紙に自分が詠んだ句をひとつずつ書き込みます。今回はそれぞれ3枚ずつ書き込みます。

2.清記(せいき)
全員が投句し終えたら、短冊をシャッフルして参加者に3枚ずつ投句用紙を戻します。
配られた投句用紙に書かれている俳句を、手元の清記用紙(今回はA4の紙)に丁寧に書き写します。これによって筆跡が消え、誰が詠んだ俳句なのかがわからなくなります。

FUMIKODA句会 星野高士先生

3.選句(せんく)
清記用紙を参加者で時計回りにぐるぐると回しながら、気に入った俳句を自分のメモ用紙に書き留めます。全ての清記用紙が一周し、自分の書いたものが自分の手元の戻ってきたら、メモ用紙に書き留めた俳句の中から特に気に入ったものを選びます。今回はひとり5句ずつ選句ました。

4.披講(ひこう)
全員が選句し終わったら、それぞれが選んだ句を発表します。自分の句が読まれたら、詠んだ人は自分の名前を言います。この時点ではじめて誰が詠んだ句なのかがわかります。
選んだ5句のうち、一番良かった句を「特選」として最後に読み上げます。そしてその句に惹かれたポイントを発表します。

5.選評(せんぴょう)
披講が済むと星野先生による選評の時間が始まり、先生が選んだ句と、なぜそれが良かったのかが発表されます。

句会によって若干アレンジがされているようですが、FUMIKODA句会はこのようなながれで開催されました。

いよいよ、星野高士先生による選評

いよいよクライマックスは、先生による選評の時間です。当日投句された句の中で、星野先生が選んだ特選句、選句は次のとおりです。


【特選】

冬めきて逸る心を抑えんと   中田成美
冬めきて星座かぞえる帰り道  幸田フミ
小樽駅廃線跡の薄紅葉     幸田フミ
酉の市嫁ぐことより縁つなぎ  福原生恵
コンクリの街を染めゆく紅葉かな 幸田フミ

【選】

冬めく夜影踏むことに想いのせ 白井愛奈
ため息を先回りして紅葉舞い  富田真知子
気のかわり冬めく朝の学ぶ時  福原生恵
冬めきて通勤列車の色濃ゆさ  佐藤紀子
幼子の成長はかる紅葉の葉   佐藤紀子
山里の紅葉の合間猫がゆく   五十嵐里絵
冬めくやお堀を駆けるランナーの群れ 富田真知子
冬めく夜吐息と共に缶ビール  白井愛奈
登るほど色を足しゆく紅葉山  中田成美
酉の市色とりどりの福来れ   富田真知子
旅に出て紅葉愛でつつ酒を飲む 大石信恵

【選者吟】

冬めくや少し厚め目の旅切符  星野高士
学び舎の裏山親しうす紅葉   星野高士
人声の闇に吸はれし酉の市   星野高士

FUMIKODA句会 星野高士先生

実は今回はじめての参加者が多かったことから、いくつか「季重なり」の句も含まれていました。たとえば「ふすま」や「ビール」など、意外な単語が季語だと知って、驚きながらも勉強になりました。


☆☆☆


庶民の遊びとしてはじまった俳句は決してむずかしいものではなく、季節の移ろいを感じ、5、7、5で情景を自由に表現するシンプルな文学です。
俳句をはじめると、四季折々の草花や旬の食材、日用雑貨や季節行事など身の回りの変化に敏感になり、自然に対する感謝の気持ちが高まるとともに日常生活に豊かさが感じられるようになるといいます。また、短い文章の中で無駄なく読み手の心を動かすような表現を心がけていると、語彙力はもちろん、次第に表現力が身につくそうです。

FUMIKODA句会 星野高士先生 季寄せ

星野高士先生が長年愛用されている「季寄せ」。季語と名句が記載された小冊子です。

そんな俳句にご興味がある方は、是非次回の「FUMIKODA句会」にご参加ください。ご案内はCLUB FUMIKODAのニュースレターで配信いたします。

FUMIKODA句会 星野高士先生

第1回「FUMIKODA句会」に参加してくださった皆さまと記念撮影

星野 高士(ほしの たかし)

昭和27年、神奈川県生まれ。祖母星野立子に師事し、10代より句作。 鎌倉虚子立子記念館館長、日本伝統俳句協会会員、日本文芸家協会会員、朝日カルチャー講師、FMラジオパーソナリティー、ホトトギス同人。俳誌「玉藻」主宰。
公式サイト:星野高士「無尽蔵」

【句集】

  • 「残響」深夜叢書社
  • 「句集 顔」角川学芸出版
  • 「破魔矢 処女句集シリーズ」牧羊社
  • 「谷戸 句集 現代俊英俳句叢書 第11巻」角川書店
  • 「無尽蔵 句集」角川書店

【著書】

  • 「星野立子 蝸牛俳句文庫」蝸牛社
  • 「美・色・香 俳句創作百科」飯塚書店 他