気になる「自然派ワイン」。オーガニックワインとの違いや、美味しく楽しむ方法は?
最近レストランのワインリストでよく目にする「自然派ワイン」。それらは「オーガニックワイン」と同じもののように感じますが、実は同じではありません。いったい何がどう違うのでしょうか?
世界各地のワイナリーを訪問し、納得のいく自然派ワインを輸入・販売されているオーシャンダイナーズの早坂恵美さんに、自然派ワインとオーガニックワインの違いや、自然派ワインの楽しみ方をうかがいました。
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「自然派ワイン」がオーガニックワインだと思われてしまうのは、なぜ?
自然派ワイン(ヴァン・ナチュール、ナチュラル・ワイン)という言葉が日本で使われるようになったのは、たった十数年ほど前からです。フランスで美味しいワインを見つけたから。と、最初に輸入を試みたインポーターの方々が、これまでにないジャンルのワインをどう表現すべきかと考え、造り手のワインに対する姿勢、生き方が自然体だったことから「自然派」と呼び始めたのがきっかけだと聞いています。
その「自然派ワイン」が「オーガニックワイン」と呼ばれるようになった理由は、そう呼んだ方が分かりやすかったから。そう伝えてしまっていた私たちの責任でもあります。
「自然派ワインとはどんなワインですか?」とお客様に尋ねられ、まず畑について紹介し、次に醸造の説明をしますが、なかなか醸造家の説明まではたどりつけません。忙しい飲食店のサービスの合間に話すとなると、醸造の説明もあやしく、畑の状態で話が終ってしまいます。結果、分かりやすいところが着地点となり、「自然派ワインは無農薬のワインなのね」、「保存料を使っていないわけね」と解釈され、次第に誤った情報が伝わってしまいました。
オーガニックワインは無農薬、
化学肥料不使用で栽培された葡萄を
使用したワインです
オーガニックと聞いて一番にイメージするのは、農薬を使わないで栽培された作物です。
葡萄栽培のオーガニック農法としては、「リュット・レゾネ(サスティナブル)」、「ビオディナミ」、「ビオロジック」などがあります。それぞれの農法を簡単に説明します。
リュット・レゾネ(サスティナブル)
- Lutte Raisonnée(Sustainable)
除草剤、殺虫剤、化学肥料の使用をなるべく控えて葡萄を栽培するスタイル。土地や環境を配慮しつつ継続可能な程度に農薬や化学肥料を用いる。地球(環境)、葡萄、人全てに優しくムリがない農法であると言える。
ビオロジック
- Biologic
一般的に「オーガニック」と表現されるのはこのビオロジック(有機農法)。鶏糞や牛糞などの有機肥料を使用し、放射線処理、遺伝子組み換えなども禁止。EUでは亜硫酸塩などの保存料なども基準を下回る規定があるが、日本にはない。
ビオディナミ
- Biodynamie
ビオロジックをさらに一歩進めたのがビオディナミ。ケミカルなものを一切使っていない土壌で、占星術や天文学的な要素を加味。オーストラリアの学者ルドルフ・シュタイナーが提唱。月の満ち欠けで種まき、収穫など行う。
オーガニックワインの定義は、「オーガニック葡萄から造ったワイン」ということです。
ヨーロッパではオーガニックワインの認証として「ユーロリーフ」、EUの星と葉をかたどった緑色のマークが使用されています。赤、白それぞれに保存料の規定もあり、最近ではきちんとクオリティコントロールがされています。オーガニックワインを選ぶ場合、このマークがついたものを探すのもひとつの方法です。
自然派ワインは、葡萄の栽培、醸造過程、醸造家の考え方など
「すべてにおいて自然体」であるワイン
自然派ワイン(ナチュラルワイン、ヴァンナチュール)とオーガニックワインの違いをひと言で説明すると、自然派ワインはそのワインを造った「人」が自然であるもの、そしてオーガニックワインは、人ではなく「農法」のみを見て認証されたものです。少し乱暴な言い方ですが、自然派ワインは人、オーガニックワインは畑(栽培方法)と考えるとわかりやすいかと思います。
自然派ワインは、基本的にビオディナミ、ビオロジックなどケミカルなものを一切使わない葡萄から造られますが、その葡萄をどのようなワインにしていくかで醸造家の個性と人柄などが反映されてきます。SO2(酸化防止剤)、酵母、糖、酸、濾過、清澄など、材料や工程を採用する、しないは造り手によってさまざまです。
自然派ワインの造り手は、土地と葡萄の力を信じ、自然に委ねる場合が多いのですが、もちろん放置しているわけではありません。
私は葡萄の栽培は子育てと良く似ているといつも感じています。強い葡萄を育てるためにあえて与えず、強く育った葡萄の力を信じ、その葡萄の個性が最大限発揮できるワインに成長していくことを見守る。手出し口出しは極力せず、その子(葡萄)のポテンシャルを最大限に引き出すにはセンスと知識と大きな心が必要です。
自然を信じ、任せることができる人たちが造ったワインを「自然派」と呼ぶのです。ですから毎年同じワインができるわけではありませんし、瓶の中で酵母が生きているのでどんどん変化が起こります。その変化を丸ごと楽しむことも、自然派ワインの醍醐味と言えます。
自然派ワインについて「よくある質問」
日頃自然派ワインをご紹介していて、よく尋ねられる質問をご紹介します。
Q. 自然派ワインのボトルの中の、ゴミみたいなものは何?
これは澱というものです。発酵が終ったばかりのワインは働き終えた酵母の死骸が澱として浮遊しています。やがて、赤ワインでは、ポリフェノール、タンニン、酒石酸など結晶化したものになり、白ワインは酒石酸とミネラル成分が結合していきます。清澄や濾過をしていない自然派ワインにはよく見られます。有害なものではないのですが、見た目いやな人もいるかもしれません。しかし、「この澱がおいしいのよね」という人も少なくないことをお伝えしておきます。
Q. 自然派ワインを保存するのは難しい?
自宅にセラーがない場合は、冷蔵庫に入れておくのが一般的ですが、あまり温度が低くても低温劣化するので、新聞紙などにくるみ野菜室が一番適しています。
Q. 自然派ワインは開けたらその日に飲まなきゃだめ?
ボトル飲みきれなかった場合、空気を抜いたり、窒素を入れたりなどする方法もありますが、そのワインのコルクを使ってしっかり栓をして冷蔵庫に入れておいても何日か大丈夫なワインもあります。しかし、ワインは空気に触れた瞬間から変化を起しますので、その変化の速度、方向がどうなっていくかは、ワイン次第です。初日よりも3日目が美味しいものもあれば、開けたとたんに落ちて行くものもあります。
Q. 自然派ワインを飲むときの適温は?
自然派ワインだから特別な適温はあるわけではなく、普通のワインと同じと考えてください。スパークリングワイン(6~8度)軽め白ワイン(8〜10度)、重め白ワイン(11~14度)、軽め赤ワイン(14〜16度)重め赤ワイン(17~20度)ちなみに私は赤でも冷ためが好きです。少し冷たくして温度が上がっていくに連れて起こるワインの変化を楽しみます。
美味しい自然派ワインは
どうやって選んだらいい?
当たり前ですが、最初に出会った1本で、そのあとの自然派ワインに対する印象が大きく変わってきます。十数年前に飲んだワインが匂い、その還元香(硫黄のような香)をビオ臭と表現し、今でも嫌い続けている方がいらっしゃるのは残念なことです。
醸造の過程の中で酸素が欠乏し、それが原因で生まれた硫化水素からこの匂いが出てきます。しばらくおいておくと気にならないレベルにはなるのですが、一度臭いと思うと、次に飲む気にはなりません。安定した醸造技術という点で、まず自然派ワイン界の大御所のワインをお勧めしたいと思います。
もし私が「一番好きな醸造家を1人あげるように」と言われたら、フランス・アルザスのクリスチャン・ビネールでしょうか。アルザスには、他、マルク・テンペ、ジュリアン・メイエーなど優れた自然派の醸造家がたくさんいます。この地方では白をおすすめします。またフランスで言えばロワール、ラングドックなどもコスパのいいワインが揃っています。また、インポーターにも特徴、個性がありますので、好きなインポーターを見つけて選んでいくのもひとつの方法です。
クリスチャン・ビネール 公式サイトより
最近では自然派ワインのインポーターがとても増えて、全ては紹介できませんが、Diony(ディオニー)、ヴァンクール、日仏商事、ヴィナイ・オータ、BMO、ラシーヌなど昔からの会社は安定の味わいです。
迷った時に活用したいのが、自然派ワインショップの角打ち。酒屋併設ですから、旬のワインをたくさん少しずつ飲む事ができます。その中で好きなワインを見つけたら、醸造家、葡萄品種、インポーター、地域などをお店の人に聞き、自分の好みのワインを探して行くきっかけになります。
私が時々遊びに行く東京近郊のお店を3店ご紹介します。
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トロワザムール
東京都渋谷区恵比寿西1-15-9 DAIYUビル1F・B1F
TEL:03-5459-4333
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No.501
東京都渋谷区神宮前2-5-4 SEIZAN外苑1F
TEL:03-6721-0510
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鯖寅酒販
神奈川県横浜市中区吉田町3-11 サウンド吉田町ビル2B号室
TEL:050-3483-1826
日によって開いているワインが違っていますが、より沢山のワインを安価で試すことができます。ショップの方々はとても気さくな人柄の人が多いので、恥ずかしがらずに話しかけてみてくださいね。
そして美味しい自然派ワインに巡り合っていただけると嬉しいです。
早坂 恵美
Emi Hayasaka
オーシャンダイナーズ代表。早稲田大学卒業後、地元広島の地域雑誌創刊編集長を経てフリーランスライターに。結婚して12年間の専業主婦の後、「saita」「STORY」などの女性雑誌を中心にライター業を再起動。47歳でワインのインポート会社を起業の後、飲食店も経営。現在は自然派ワインの販売を主な事業とする株式会社オーシャンダイナーズの代表取締役を務める。店舗を持たないワイン販売で一般のお客様、飲食店などの個性、嗜好によりそったワインをおすすめしている。