さりげなく暮らしにとけ込む、幸せなテクノロジーをデザインする:幸田フミインタビュー

FUMIKODA STORY

2017年にSSよりデビューしたブランドFUMIKODAは、ラグジュアリーなデザインと働く女性のライフスタイルに最適化した商品を展開し、ファンを集めています。しかし、その背後にはテクノロジーと伝統工芸、エシカルといったさまざまな文脈がふくまれています。
クリエイティブディレクターの幸田フミさんに、その背景や開発秘話についてお話を伺いました。


——FUMIKODAのバッグの素材選びやデザインにも、テクノロジーへの高い関心がうかがえます。それはご自身で経営されてきた株式会社ブープランの主要事業であるウェブデザインやITコンサルなどのお仕事が影響しているのでしょうか?

幸田:かなり前の話にさかのぼるのですが、学生時代はニューヨークにあるパーソンズ美術大学でデザインを学んでいました。卒業したのが1996年ですから、もう20年近く前のことですね。グラフィックデザインを専攻していたので、デザイナーとしてメディア系企業に就職しようとも思っていましたが、Fashion Planetというウェブを使ってファッションのマーケティングをしているニューヨークのベンチャー企業に入社することにしました。

まだ一般家庭にはアメリカでもインターネットが普及していない時代でした。アメリカでさえそうでしたから、ヨーロッパのラグジュアリーブランドは、どこもウェブサイトを持っていません。新人だったにもかかわらず大手ブランドの初代ウェブサイトのデザインと構築を任されていましたが、まだウェブデザイナーという職業がなかったんですね(笑)。ですから、グラフィックデザイナーとして入社した私がウェブデザインも担当することになったんです。

ハイブランドをクライアントに持つ会社とはいえ、入社を決めた時は、「どうして世界有数のメディア企業を蹴ってベンチャーになんかに行くの?」と、家族にはすごく反対されました。それにあの頃はインターネットって、いかがわしいものだと思われていましたから(笑)

でも私は、新しいテクノロジーやアイディアに人類の未来があると考えていますし、既存の仕組みよりもずっと魅力的だと感じるんです。だから就職を決める時も、「ブランドが確立されているメディアよりも、未来がどうなるか想像できない分野に行ってみよう」と考えて決めましたし、今考えてもその判断は正しかったと思っています。

目新しいものというよりは、テクノロジーそのものが好きなのかもしれません。それによって世の中が変わっていくことや、そのテクノロジーがもたらす未来が本当に人にとって幸せなのか?ということを議論するのが好きなんです。なぜかと言うと、テクノロジーの進歩は、人間にとって恩恵だけではなく、デメリットももたらしますから。たとえばスマホを手放せずにSNS依存になってしまう人がいたり、イノベーションがもたらす便利さの裏で問題も起きています。今話題になっている人工知能も、将来は同じようなジレンマを引き起こすかもしれません。つまりどんなテクノロジーも、それがあることによって、結局最後には人間の思想や価値観が問われていく。そのような問いにつながるからこそ、テクノロジーに惹かれるのだと思います。

価値をデザインでパッケージすることの大切さ

FUMIKODA PAOLA

GPS連携機能付きキーリング「PAOLA」とトートバッグ「GINA II」

 

——キーリングのPAOLA はGPSで落とし物の所在地を確認できるMAMORIO(マモリオ)がおしゃれにパッケージされることで、テクノロジーを自然な形でファッションに取り入れることに成功していますね。

幸田:PAOLA はIoTをそうであると意識せず自然に使えるようにと考えて作りました。どんなに便利でも、むき出しのタグのままだと、女性としては使うことに抵抗感を覚える方が多いと思うんです。

IoTだけではなく、FUMIKODAは軽くてA4サイズが入るお仕事バッグでいながら、エレガントなデザインにもこだわりました。日本の技術によって、本革と遜色ない質感のアニマルフリーレザーで、女性が使いやすいお仕事バッグを開発することができました。

アクセサリーパーツに使っている伝統工芸技術も同じ考えで取り入れています。私たちの先祖が培ってきた伝統的な技術もまたテクノロジーのひとつですよね。それが今の生活に役立つ機能を付与されることで、最初はそうと意識しなくても、結果的に持っていて気分がよくなる、物に対して価値や奥深さを感じられるというアプローチがいいと思います。



ARIANNA 高岡銅器

パソコンやA4の書類を持ち歩くことができる軽いバッグ「ARIANNA」の高岡銅器バージョン

 

——FUMIKODAのバッグを作る時に、日本の伝統的な技術を発掘して製品に取り入れていこうと思ったきっかけはありましたか?

幸田:バッグを開発していて、何かアクセントになるものが欲しいと考えていた時、最初にたどり着いたのが高岡銅器(※1)で、見た瞬間にハッとする色だったことを覚えています。高岡銅器にも色んな色がありますが、あの色が一番目を引いて二度見してしまうほどでした。それをきっかけに日本の伝統的な技術を色々と探すようになったんです。

※ ARIANNA Takaoka-Douki、TALA Takaoka-Douki、IKULA Takaoka-DoukiにはモメンタムファクトリーOriiの職人が手作業で染色しているターコイズカラーの金属バーがほどこされている。

人間は共感をしていくことでお互いに関係性を感じられますが、それは人と物が出会った時でも同じだと思います。ストーリーや歴史、工夫やアイディアに共感するからこそ愛おしく感じたりもします。それは、どれほどテクノロジーが進化しても、私たちが人間である以上、残っていく感覚であり価値じゃないかなと思います。

試行錯誤と挫折の繰り返しだった商品づくり

KODA FUMI TRANOÏ

パリのファッション展示会「TRANOÏ FEMME(トラノイファム)」出展時の様子

——商品開発の途中では、試行錯誤があったり計画通りにいかなかったり、ご苦労もあったのではないでしょうか?

幸田:あります、あります! 今にして思うと、よく出来上がったと思います(笑)。まず、私がものづくりのバックボーンがない素人だったので、「こんなものを作りたい」と言ってバッグを製造する工場にお願いをしても、大抵は門前払いでした。実績がないので向こうからすれば商売になるか分かりませんし、職人のプライドとしても高級であるとはいえ人工皮革のバッグを作ることに抵抗がある方が多かったと思います。

探し回ってようやく1社がサンプルまで作ってくれましたが、何度も修正をお願いしたところ、ついにお断りされてしまったこともありました。それまでは仕事でウェブデザインをしていたので、修正はあって当たり前と思っていましたが、商品のサンプルは多くても2回くらいしか作り直さないのが常識だったんですね。

それで振り出しに戻って、別の工房を紹介してもらって訪ねたところ、ARIANNAの特殊な構造について職人さんが感激してくれて引き受けてくれたのはいいけれど、今度は先方のスキルが追いつかなかったり…。もう本当に色々ありました。そんななか、ある高級ブランドの商品を製造している会社とたまたまご縁があって、ちょうど仕事の手が空いているタイミングだったこともあり、受けてもらえることになりました。

 


未来を選ぶ選択肢のひとつとしてのバッグ

幸田:結局、FUMIKODAは、軽くて持ちやすいお仕事バッグが欲しい。パソコンやA4サイズの書類を持ち歩ける使いやすいバッグを作りたいという強い思いがあってここまで来ました。トートバッグ「GINA」も、雨の日に持てる軽くて大きいバッグが欲しいと思って作りましたし、サングラスケース「JOANNA」も、こんなアイテムがあればいいのにと思って、紙とホチキスでサンプルを作って依頼したものが今の形になりました。

ただ、女性用のお仕事バッグを作り続けることに使命感を抱くようになったきっかけがありました。それは、皮革産業の裏側を知ったことです。それまでは私も合皮ではなく革のバッグを好んでいましたし、バッグを作るなら素材は革だと当たり前のように思っていました。ところが、いざ自分でバッグをデザインしようと素材を探していたところ、ハラコが動物の胎児を取り出して剥いだ皮だということを知って、とてもショックを受けたんです。それまで知らなかったんですね。私もベジタリアンではないので矛盾しているようですし、選択は人それぞれなので他の人が持つことをとやかく言うつもりはありませんが、自分はそれを選びたくないと思いました。

改めて考えてみると、動物の皮を剥いで袋にしたものに最新のパソコンを入れて持ち歩くことがナンセンスだと思えました。インターネットを通じて遠隔でも仕事ができるような21世紀の時代に、なぜ古代から使い続けてきた素材にこだわる必要があるのかと。

それから、革製品の製造工程にも問題があることが分かりました。革をなめす時に使う化学薬品が工場の近くの河川や土壌を汚染することで障がいをもつ子どもたちが増えているんです。そのこともリアルレザーを避けたいと思う理由のひとつでした。

 

——先進国にいる自分たちはいい思いをして、それが生産される過程にある犠牲を途上国に押しつけるのは、経済至上主義が生み出した負の側面を象徴しているように思えます。

幸田:先進国の働く女性が、そのような背景で大量生産されている商品を買って、大量生産と大量消費のサイクルの手助けをしているという構造になっています。それを知りながら、そのような消費を選択することは知的な女性のすることではないと思いました。でも今のところ、オルタナティブな物を求めた時に選択肢があまりにもないんですね。ですから、それを変えたいと思っています。

ただし、クオリティは絶対に落とせません。そう思って素材について調べたところ、高級車で採用されているクオリティの高い人工皮革が日本で製造されていることが分かりました。軽くて持ちやすいお仕事バッグを作るにはぴったりな素材です。ただ、アパレル業界では一部の高級ブランドを除いてほとんど使われていません。消費者の多くが高級な素材はリアルレザーだとみなしているので、それに応える形でアパレル業界も同じ値段ならリアルレザーを採用するという状況なんです。それで、「じゃあ、日本から変えていくか!」という使命感を感じてしまったんです(笑)

FUMI KODA

とは言っても、始めた頃は「軽くて使いやすいお仕事バッグがあればいい、と思っているのは私だけかもしれない」と不安を抱いていたのが正直なところでした。でも実際に販売を開始した今は、自分の目指す方向に間違いがなかったと思えます。パソコンやA4サイズの書類を入れてストレスなく持ち歩けるエレガントなお仕事バッグに強く共感してくれるたくさんの女性たちが買って、反響が広がってきていますから。今度はそれを広めていく段階ですね。

FUMIKODAの商品は、軽さやリアルレザーと変わらない質感など、実際に手に取ってもらわないと分からない魅力があるので、今後はお客様が商品に触れられるストアを増やしたいですね。将来的には、アップルストアのようなショールーム的なフラグシップストアを世界各地に構えて、オンラインで世界中どこからでもいつでも注文ができるようにしていきたいと思っています。

これからはお仕事バッグだけではなく、他にも色々なシーンで女性が使いやすいアイテムを作ろうと思っていますが、仕事への自信と人生観や価値観をしっかり持っているビジネスウーマンに使ってほしいことには変わりません。責任のある仕事をしながらもエレガントな女性であることを目指しているお客様のためのアイテムを、今後も作りたいと思っています。

(了)


  • 2017.07.06

  • JOURNEY to FUMIKODA WORLD

    EXPERIENCE of FUMIKODA WORLD